175年前の悲惨な事故「鉄の棒が頭を貫通した瞬間の顔」が再現される
鉄の棒が頭を貫通した瞬間の顔――。175年前の悲惨な事故に見舞われた人物の顔が最新のCG技術で再現された。
■悲惨な事故の実態をアニメーション化
1848年9月13日午後4時半頃、米バーモント州カヴェンディッシュで鉄道の敷設作業に従事していたフィニアス・ゲージ(当時25歳)は、発破作業中の誤爆で勢いよく跳ね上がった鉄の棒に頭部を貫かれるという悲惨な事故の犠牲になった。
長さ約1メートル、直径約3センチの鉄棒が顔の左頬の下から入り、左目の後ろを通り抜け、頭頂部から抜け出していったのだった。
ゲージの左前頭葉の大部分は破壊されたのだが奇跡的に一命を取り留め、左目を失ったもののこの事故後12年間生存したのである。このきわめてレアな症例と経過は医学史に残る伝説となり、その後も多くの科学者の興味関心を引き起こしている。
ブラジル出身の3Dデザイナーで法医学の分野でも活躍しているシセロ・モラエス氏はこの度、フィニアス・ゲージの事故の一部始終を3Dコンピュータグラフィクスで再現して話題だ。
モラエス氏はゲージの175年前の悲惨な事故に興味を持ち「あの瞬間何が起こったのか知りたい」と最新の3Dテクノロジーを駆使して事故の再現に取り組んだのである。
犯罪科学では頭のさまざまな部分の推定される皮膚の厚みを算出することで、頭蓋骨から人の顔を再現する手法が開発されている。
モラエス氏は解剖学的な変形にも着目し、鉄の棒が刺さってから抜けていくまでの過程における顔のビジュアルをアニメーション化して再現したのである。
「事故の深刻さを興味のある人がよりよく理解できるよう、視覚的な教材を作成することもできました」とモラエス氏は解説ビデオで語る。
■前頭葉の損傷で性格が変化した
ゲージは事故後に性格が変わったといわれている。それはやはり脳の一部が損傷したことでおきたのだろうか。この問題は後に医学論争にまで発展する。
彼の友人たちや主治医は「もはや以前のゲージではない」と話し、事故以前の実直さが失われ、悪態をつくことが多くなったと報告していたことが記録に残されている。
ゲージのケースは脳のそれぞれの部分が異なる機能を実行するという考えが正しいことの証明であると言う者もいれば、脳のある部分が失われた場合にどのようにして別の部分を引き継ぐことができるかを示すケースであると説明する専門家もいた。
カーディフ大学の神経科学教授、ジョン・アグルトン氏は、2011年に「BBC」に対し、それはどちらもある程度正しいと語っている。
「このケースは一種の計画や知的戦略を連想させる脳の一部である前頭葉が、感情においても重要な役割を果たしているという事実を人々に警告しました」(アグルトン氏)
つまり前頭葉の損傷によってゲージの性格に変化がもたらされたというのである。モラエス氏が作成したアニメーションでも金属棒がゲージの頭蓋骨を貫通し、前頭葉の大部分を破壊している様子が示されている。
事故の後のゲージはこの性格の変化のために元の職場に残ることはできなくなり、チリに渡って長距離駅馬車の運転手の仕事に就いた。
しかし健康を害したため、後にカリフォルニアに移住し、残念ながら1860年に36歳の若さで死去する。
メルボルン大学の心理学教授マルコム・マクミラン氏は「BBC」に対し、ゲージの死因であるてんかんはおそらく事故が原因だったと話す。
悲惨な事故とその後のゲージの恵まれない暮らしぶりは残念であったようにも思えるが、医学の進歩に貢献した立派な人生であったと信じたい。
参考:「Daily Mail」ほか
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