チンパンジーに顔面を破壊された女性の痛ましい姿… 野生動物をペットにすることのリスク

 動物タレントとして活躍するケースも少なくない愛らしいペットたちだが、その中には一般的な人間を上回る身体能力を持つ種や個体もある。かつてアメリカではペットのチンパンジーが人間の女性に襲いかかり瀕死の重傷を負わせた痛ましい事故が起こっている。

チンパンジーに襲われ瀕死の重傷を負う

 日々の生活を賑やかで豊かなものにし、高齢者の孤独を埋め、子供の情操教育にも寄与するといわれているペットだが、当然ながら動物を飼うことには相応の責任が伴う。特に人間を上回る身体能力を持つ動物種や個体を飼うことは場合によっては大惨事を招きかねない。かつてアメリカではペットのチンパンジーによる痛ましい惨事が起きている。

 2009年2月16日、チャーラ・ナッシュさん(当時55歳)は友人のサンドラ・ハロルドさんの家を訪れ、そこでペットとして飼われていた14歳のチンパンジー、トラビスとの交流の機会を持った。トラビスはフレンドリーなペットとして知られており、コマーシャルやテレビ番組にも出演する動物タレントでもあった。

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ナッシュさんとトラビス(画像は「YouTube」より)

 しかしその日のトラビスは何かが違っていた。トラビスはナッシュさんに襲いかかり、信じられないほどの力で彼女に噛みついたり殴ったりしたのだ。ナッシュさんの負傷は生命を脅かすほどのものであり、緊急治療のために病院に運ばれた。結果的にナッシュさんは手、鼻、視力を失ったのだ。

 通報を受けて現場に駆けつけた警察官によってトラビスは射殺された。この事件はペットの危険性を問うものであり全米の注目を集め、コネチカット州を含むいくつかの州で、例外的なペットの所有を管理する法律が強化された。

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トラビス 画像は「Wikipedia」より

回復とリハビリテーション

 数カ月に及ぶリハビリテーションと手術の後、ナッシュさんは、事故で失った身体機能の一部を取り戻した。彼女は杖の助けを借りて歩くことと、再び固形物を食べることが可能となったのだ。

 2011年、ナッシュさんはボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院で画期的な手の移植手術を受け、アメリカで両手移植を受けた最初の人物になった。亡くなったドナーの手をナッシュさんの腕に移植する手術は40人を超える外科医、看護師、およびその他の医療専門家のチームによって行われた。手術は成功し、ナッシュさんは新しい手の使い方を学ぶ長い道のりを歩み始めたのである。

 続いて2015年、ナッシュさんは同じ病院で今度は顔面移植手術を受けた。亡くなったドナーの顔をチャーラの顔に移植する手術は100人を超える医療専門家からなるチームによって行われた。手術は成功し、ナッシュさんは世界で顔面移植を受けた数少ない人物の1人として再び医療の歴史に名を残した。

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事故後のナッシュさん(モザイクのない画像は「YouTube」をご覧ください)

 移植手術は成功したものの、ナッシュさんはは回復の過程で複数の継続的な課題に直面した。移植された臓器を身体が拒絶するのを防ぐために生涯にわたる投薬を必要とし、可能な限り多くの機能を取り戻すために理学療法とリハビリテーションを受け続けることになったのだ。

 ナッシュさんの道のりは多くの人々のインスピレーションの源であり、彼女の勇気と回復力は臓器提供と移植手術の重要性についての世の認識を高めることに大きな役割を担ったといえる。

 またナッシュさんの物語は、動物の権利と福祉の重要性についての認識を高めるのにも一役買った。多くの動物の権利擁護者は彼女の経験を活用して、特にエンターテインメント業界で使用されている動物や、異例のペットとして飼われている動物をよりよく保護する必要性が強調されることになった。

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術後のナッシュさん(画像は「YouTube」より)

野生動物をペットとして飼うことの危険性

 ナッシュさんは2013年からメディアに登場するようになり、インタビューで現在の身体の具合や、襲撃が彼女の人生に与えた影響について話している。彼女はまた、野生動物をペットとして飼うことの危険性に対する認識を高める必要性と、動物と人間の両方を保護するためのより強力な法律の必要性についての考えを共有した。

 メディアへの出演に加えて、ナッシュさんは動物の福祉と安全を促進するために活動するいくつかの擁護キャンペーンや組織にも関与している。彼女はイベントや会議で講演し、レアな野生動物をペットとして飼うことの危険性についての意識を高めることに尽力している。

 彼女の経験は、野生動物の所有に対する一般の認識に大きな影響を与え、外来動物の所有を管理する法律や規制に重要な変化をもたらした。

 昨年11月には飼っていたクマに襲われた飼い主の男性が死亡するという痛ましい事故が日本でも起こっている。このクマも射殺され、悲劇が上塗りされるだけになった惨事が残念でならない。ともあれペットを飼うことの重い責任を改めて突きつけられる話題であることは間違いない。

参考:「Bugged Space」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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