“心の痛み“は心臓の傷み? 失意で亡くなる「ブロークンハート症候群」の危険性を外科医が指摘

 ※ こちらの記事は2018年6月3日の記事を再掲しています。

 愛する人を失い“心が引き裂かれる”と実際に心臓に多大な負荷がかかり、死にさえつながることを有名な心臓血管外科医が指摘している。

■精神的ショックで起こる“ブロークンハート症候群”とは

 オーストラリア外科医師会に属し、著書多数の心臓血管外科医、ニッキ・スタンプ氏が、心臓への“愛”について英紙「Daily Mail」に寄稿している。スタンプ氏は知れば知るほど“美しい臓器”である心臓が愛おしく思えてならないのだという。そして、まさに心は心臓であり、われわれの感情を支配するとともに、心が痛む体験は実際に心臓にダメージを与えるとしてわかりやすく解説している。愛する人との離別による失意と傷心で死に至ることもあるというのだ。

 1990年代の初めに心臓発作に似た胸の痛みを訴える女性患者を検査したところ、冠状動脈には異常は見られず医師たちは当惑したのだが、話を聞くと、その当日に彼女の10代の息子が自殺未遂を引き起こしていたのだ。まさに心の痛みが招いた心臓疾患ということになり、この症例から「ブロークンハート症候群」と名づけられた。

 スタンプ氏によれば、精神的ショックはアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどのホルモンの分泌を促し、冠状動脈に一時的なダメージを与えて心臓発作に似た症状を引き起こすということである。そして、このブロークンハート症候群に苛まれるのは圧倒的に女性が多いという。ブロークンハート症候群の患者の9割が女性という年もあるということだ。女性はそれだけ感情面の影響を心身に受けやすいのかもしれない。

 さらに閉経後の女性は、心臓を守る働きのあるホルモンであるエストロゲンの分泌が低下するので、心臓によりダメージを受けやすい状態にあるという。

心の痛みは心臓の傷み? 失意で亡くなる「ブロークンハート症候群」の危険性を外科医が指摘の画像2
画像は「Daily Mail」より引用

■心臓にダメージを与えるパートナーとの死別と離婚

 中高年になってからのパートナーとの死別は、心臓に多大な悪影響を及ぼしているという。ある研究によれば、愛する人を失った初日は、心臓発作を発症する可能性が普段の16倍も高まっているということだ。また、別の研究ではパートナーとの死別から最初の30日間、死亡率が66倍に増加しているという報告もある。妻に先立たれた夫があまり時を経ずに“後を追う”というケースも一般的によく知られている。

 中高年だけでなく若者にも注意が必要で、記事によれば精神的ストレスによる神経系とホルモンの活性化が引き起こす心拍の乱れは若者のほうが顕著に現れやすいということだ。

 死別だけでなく離婚もまた心臓へのダメージになり得る。記事によれば、離婚した女性は結婚を続けている女性よりも1.29倍から1.39倍、心臓発作リスクが高まるという。一方、離婚した男性のほうは1.38倍と、ほぼ同等の心臓発作リスクだ。

 男性は再婚することでこのリスクは打ち消されるのだが、どういうわけなのか、女性は新たなパートナーを見つけても高まった心臓発作リスクはそのまま続くという。

■うつと心臓疾患の強い関係

心の痛みは心臓の傷み? 失意で亡くなる「ブロークンハート症候群」の危険性を外科医が指摘の画像3
画像は「Daily Mail」より引用

 うつと心臓疾患の強い関係も指摘されている。9万3000人のうつの女性を調査したところ、うつの女性はそうでない女性よりも1.5倍、心臓疾患リスクが高まり、また別の研究ではうつの男女は心臓発作のリスクが1.6倍になるということだ。

 そして、うつの症状を抱え心臓発作を体験した患者は、次にまた心臓発作を起こす確率が2.5倍に上がり、死につながる心臓疾患の確率も同程度に上昇するという。

 うつの症状になると身体は免疫機能を高めようとして細胞内で生理活性タンパク質(サイトカイン)を多く分泌するようになるのだが、一方でサイトカインは血管を詰まらせるなど心臓にダメージを与えるのだ。さらに、うつの状態では健康的な食生活や運動はあまり期待できず、結果的に心臓の健康にも悪影響を及ぼしてしまう。

心臓の健康を保つ“ハグ”と睡眠

 薬物にあまり頼らずに心臓の健康を保つにはどうすればよいのだろうか。その鍵を握っているのがオキシトシンと睡眠である。

 別名“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンは幸福感や愛情に関係があるといわれていて、主に乳幼児やパートナーとのスキンシップで分泌が促される。そして、このオキシトシンは心臓の健康に良い働きを及ぼすことも報告されている。

 心臓は心臓発作や各種感染症によって炎症を起こすのだが、オキシトシンは炎症を抑制する働きがあり、心臓と血管へのダメージを緩和するのである。

 日常生活のなかでオキシトシンのレベルを上げるにはどうしたらよいのか。そのひとつの有効な方法は身近な人々となるべく多く“ハグ”をすることだという。

 また、十分な睡眠も心臓の健康を左右する。不眠症患者は1.8倍も高血圧症を発症しやすく、そのぶん心臓疾患リスクも高まるのだ。“ハグ”は、できる相手がいないことには行うことはできないが、心臓の健康のためにも十分な睡眠時間は、ぜひともたっぷり確保したいものだ。

参考:「Daily Mail」、ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

仲田しんじの記事一覧はこちら

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

“心の痛み“は心臓の傷み? 失意で亡くなる「ブロークンハート症候群」の危険性を外科医が指摘のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで