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光速を超えて“過去”へ…？物理学者が解き明かす「ワープ航法」に隠された、タイムトラベルへの扉

2025.10.17 16:00 編集部

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光速を超えて“過去”へ…？物理学者が解き明かす「ワープ航法」に隠された、タイムトラベルへの扉の画像1 — 画像はUnsplashのLogan Vossより

　タイムトラベル（時間旅行）は、もはやSFだけの夢物語ではないのかもしれない。オーストラリアの物理学者たちが、「ワープ航法」として知られる超光速移動の理論を発展させ、時間旅行を研究するための新たなモデルを提唱した。これは、物理学の限界を押し広げ、我々が知る時空の概念そのものを揺るがしかねない驚くべき一歩である。

光より速く飛ぶ“魔法のじゅうたん”―アルクビエール・ドライブとは

　この研究の基礎となっているのが、30年以上前に物理学者ミゲル・アルクビエールによって提唱された「アルクビエール・ドライブ」という、ワープ航法の理論だ。

　アインシュタインの相対性理論によれば、この宇宙では光より速く移動することは不可能だ。しかし、アルクビエール・ドライブは、この絶対的なルールを実に巧妙な方法で回避する。宇宙船そのものが光速を超えるのではなく、宇宙船を包む「時空の泡（バブル）」を作り出し、その“泡”の前方の時空を収縮させ、後方の時空を膨張させることで、空間そのものを移動させるのだ。それはまるで、宇宙船が乗ったテーブルクロス（時空）を手前側に一気に引き寄せるようなものだ。宇宙船は静止したままで、空間の方が移動するため、相対性理論に矛盾することなく、結果的に光より速く移動できる、というわけだ。

“時間の渦”に飛び込み、過去へ―閉じられた時間的曲線

　そして、このワープ航法に、時間旅行の可能性をもたらすのが、「閉じられた時間的曲線（Closed Timelike Curves, CTCs）」という概念だ。これは、かつてアインシュタインの同僚であった数学者クルト・ゲーデルが発見したもので、時空が極端に歪むと時間がループし、過去へと戻る道筋（曲線）が生まれる、という考え方だ。

　アルクビエール自身も、自らが提唱した「時空の泡」が、このCTCを持つ可能性があると示唆していた。つまり、ワープ航法は超光速で空間を移動するだけでなく、時空の歪みを利用して“時間の渦”に飛び込み、過去や未来へと旅するためのタイムマシンの設計図にもなりうるのだ。

光速を超えて“過去”へ…？物理学者が解き明かす「ワープ航法」に隠された、タイムトラベルへの扉の画像2 — イメージ画像　Created with AI image generation

“過去の自分とビリヤードをする”ための思考実験

　今回、オーストラリアの物理学者ティム・C・ラルフとアチンティヤ・サジンドランが発表した論文は、この理論をさらに一歩推し進めたものだ。彼らは、アルクビエールの時空モデルに特殊な制限を加えることで、時間旅行のパラドックス（矛盾）を研究するための、より安定した「遊び場」を作り出した。

　例えば、「ビリヤードの球の問題」という思考実験がある。もし、ビリヤードの球がワームホールに飛び込み、過去の自分自身と衝突したらどうなるか？こうした、頭が混乱するような問題を、彼らが構築した新しいモデルの中でシミュレーションすることで、時間旅行が物理的にどのような結果をもたらすのかを、より深く探求できるというのだ。

　もちろん、これはまだ純粋な理論物理学の世界の話であり、すぐにタイムマシンが完成するわけではない。彼らの論文自身も「物理的な実現可能性は疑わしい」と認めている。しかし、このような一見すると突飛な思考実験こそが、科学を前進させる原動力となる。

　物理学の常識という踏み固められた道から敢えて外れ、その限界を探求すること。それこそが、いつか人類が時空の謎を解き明かすための唯一の道なのかもしれない。科学者たちの“遊び”の中から未来のタイムマシンが生まれる日も、そう遠くないのかもしれない。

参考：Popular Mechanics、ほか