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■ビジュアルではなかった、『CUBE』の魅力

 でも改めて観直してみると、本作の真の魅力はそういった表層的な部分ではなくて、意外なほど普遍的なテーマと、それらを支える堅実な演出、そして役者陣の緻密な演技にあったことを実感させられました。

 本作の監督を務めるのは、これが長編映画デビューとなるヴィンチェンゾ・ナタリ。『CUBE』以降の17年で自ら監督した長編作品は5作(内ドキュメンタリー1作含む)。そのラインナップをみてみると産業スパイがアイデンティティを崩壊させていく『カンパニーマン』、何でも消去する能力を持ってしまったダメ男たちの顛末を描く『NOTHING』、禁断の新生物創造の物語『スプライス』、同じ一日をエンドレスで繰り返す『ハウンター』と、不条理もしくは理不尽な状況に陥った人間の姿をモチーフとした作品を繰り返し撮っていることがわかります。

 面白いのは、そうした内面描写を重視する一方で、SF的な要素を好んで組み込んでいるところで、これはナタリ監督がカナダ出身ということが影響していると思います。カナダの映画作品はほぼアメリカかフランス、どちらかの市場を狙って作られるんです。派手なエンターテインメント作品はアメリカ、渋いドラマや芸術作品はフランス…といった具合に。

 ところがこの『CUBE』は、ナタリ監督の母校でもあるカナディアン・フィルムセンターが制作費を提供した半分文化事業的な作品なので、そこまで市場は意識しなくても良かった。だからSF的なエンターテインメントとドラマの要素が、独特な割合で入っているんでしょう。おまけに、それで大ヒットしちゃったから、もう一つの作家性として確立したんでしょうね。

 話は戻りますが、そんなナタリ監督が、この『CUBE』でも描きたかったのはやっぱり、日々の生活では表れることのない各人の奥底にある人間性だったと思います。「警察官のクエンティン」「数学専攻の学生レヴン」「精神科医のハロウェイ」「伝説の脱獄犯レン」「謎の男ワース」そして「精神障害者のカザン」。

 理由もわからず集められ、始めは協力していたはずの彼ら6人の関係性が、事態が進むに連れて変容していく様が、本作最大の見所であり、不条理な状況や理不尽なルールは、それを際立たせるためのガジェットなんですね。

「冒頭での彼らは単なる一つの集団なんだ。物語が進むに連れて個性が出る」とコメンタリでナタリ監督が語っていますが、こうした監督の狙いを、実際に体現する役者さんの演技も必見です。それぞれ多面性を持ったキャラクターが徐々に追い詰められ、まさに人が変わっていく様子を、微妙にトーンを違えた芝居で繋げていきます。

 中でもカザン役のアンドリュー・ミラーは、実際に自閉症患者のいる施設を取材して演技プランを構築。完成した作品を観た関係者から、絶賛の声が寄せられたそうです。こうした役者陣の細やかな演技を、じっくりと堪能できるのはパッケージソフトならではの快感でした。


■完成度とは真逆の撮影現場が特典で明らかに!

 またパッケージソフトならでは、といえば、もうひとつ今回のディスクに特典として収録されているナタリ監督と脚本を手がけたアンドレ・ビジェリック、ワース役のデヴィッド・ヒューレットによる音声解説は必聴です。いわゆるオーディオコメンタリー形式で各シーン毎の演出意図や撮影秘話が明かされていくんですが、本編映像の完成度の高さとは裏腹に、いかに制作現場が慌しく、破綻寸前であったかが、かなり赤裸々に語られていて、これは楽しい!

 ちなみにその解説によれば本作の製作日数は準備におよそ8週間、撮影はわずか21日間。“キューブ”のセットは予算の関係で、完全な六面体のものと、半分の三面で囲まれたものの二つしか作れず、スタッフはカナディアン・フィルムセンターの卒業生や生徒を総動員して、それでも修羅場の日々だったそうです。

 印象的だったのは、最後のスタッフロールの際にアンドレの「でも君が撮りたかったのは『ダイ・ハード』とか『ロンドン大走査線』だろ」との問いにナタリ監督が「この路線で行って本当に良かった」と答えるところ。ナタリ監督が作る『ダイ・ハード』って……いまのジョン・マクレーンなら“キューブ”に閉じ込められても、平気で脱出しちゃうよ!
(文=雑賀洋平)

映画情報
『CUBE』
出演:モーリス・ディーン・ウィント、ニコール・デボアー
監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
販売元:ポニーキャニオン

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