病的な不安を掻きたてる「情報監視システム」 ― 暴露したスノーデンは英雄か、ただのナルシストか?
■知らぬが仏?
ただし、そうした監視網がなんの役にも立っていないことが本書では指摘され、批難の対象となっている。2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件や、航空機爆破未遂事件や銃乱射事件など、さまざまな事件を予見できたのであれば、その監視システムは評価されていたかもしれない。しかし、システムは集めた情報からなんの予見もできず、市民に「監視されているかもしれない」という不安を与える存在でしかない。こうしたシステムに対して、こんなことも言えるかもしれない。「存在を知らなければ、なんの意味もないシステムだった」と。
集めた情報から犯罪を予測するシステムが構築されたとしよう。それが誤作動をおこして、誤認逮捕や冤罪を引き起こすようであれば、そのシステムは問題だ。しかし、現時点での監視システムは、知らなければ痛くも痒くもない役立たずでしかない。単純な「寝た子起こすな」論になってしまうけれど、そんなシステムについてのスノーデンの告発は、ただ人々を不安にさせるだけだったのではないか、とも思える。告発によって、監視システムが無くなったわけでもないし、社会が良くなったわけでもない。
これではスノーデンの行為が「名声を求めたナルシシズム」と呼ばれるのも否定できないのではないか。著者にすれば、こうした批難もアメリカのジャーナリズムを批判するための格好の材料となっている。本書の後半では、情報監視の告発から論点がズレていき、延々とジャーナリズム批判がおこなわれているのだ。そこでは暴露記事公開後に著者たちが受けた様々な嫌がらせや批判の詳細を読めるのだが、これは「悲劇のヒーロー」として自分たちを演出しているようにも読めてしまった。
『007』シリーズのプロデューサーによって、スノーデンの事件も映画化されるという報道もでているが、本書を読むとそのシナリオをかなり明確に想像できるのは面白いポイントかも。しかし、ガチな陰謀論者の方々は、読まないほうが良いだろう。情報監視網の存在が病的な不安を掻きたててしまうことが確実だから。
(文=カエターノ・武野・コインブラ)
■カエターノ・武野・コインブラ
会社員。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。
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