「普通の人だってみんなアホだろ」オモロ気持ちいい映像作家:大月壮インタビュー

インタビュー:大月壮(アートディレクター)

 コマーシャルの世界では際立ったセンスでエッジの効いた映像を作る一方で、「バカ走り」のように、並の作家なら作品としての発表をためらうような(!?)バカかっこいい映像作品を生み出す大月壮とは一体、何者なのか――?

 日本全国のオシャレな若者達に支持されるBEAMS。この日本屈指のセレクトショップが、東京から生み出されるアート、デザイン、カルチャーを世界に発信するプロジェクトを展開していることをご存知だろうか?

 TOKYO CULTUART by BEAMSがプロデュースした「BARTS DVD」は新進気鋭の映像作家を起用したDVDレーベル。その参加作品の中でもとりわけ異色なのが「バカ走り」だ。ゆるゆるとしたチルアウト系ミュージックをバックに、老若男女が奇妙なアクションと表情でカメラに向かってスローに走ってくる姿を捉えたこの映像作品を見た者は、ほぼ確実に腹を抱えて笑い、そして、可笑しさのピークが過ぎた後、まるで夏の終わりの夕暮れのようにセンチメンタルな幸せの余韻のようなものが胸に残っていることに気付かされる。

 今回、TOCANAではこの “オモロ気持ちいい新感覚のスローモーションムービー” を制作した映像作家、大月壮氏に話を伺った。


■くだらないものをくだらなく撮りたかった

「普通の人だってみんなアホだろ」オモロ気持ちいい映像作家:大月壮インタビューの画像2撮影:渡邊浩行

――大月さんの「バカ走り」を初めて観たときは衝撃でした。ビデオアートのような映像作品には一般の人から見て難解なものが多いと思うんですが、「バカ走り」は違いました。面白くてついつい笑ってしまう。なのに、見終わったあとにはほのかな感動……というか、要は目頭が熱くなってしまったんですね。「バカ走り」のような作品は、アートの映像作品としては希有だと思います。

大月 ありがとうございます。ただこれはビデオアート作品とか、そういう物々しいジャンルとして発表したわけでもなくて。あえてジャンルを言うなら “Youtube” ですかね。

――Youtubeですか(笑)。

大月 はい。Youtubeってアート的なものから広告から、別に誰も見たくないような素人がただ撮っただけのものだったりと様々なものがごちゃっと陳列されてて、そこから視聴者自身で価値を見出だしていく感覚があるじゃないですか。それってフェアな感じがして好きで。そこにブチ込んだって感じですね。

――2009年に「バカ走り」のDVDが発売されたわけですが、そもそも「バカ走り」を作ろうと思ったキッカケは?

大月 業務用のハイスピードカメラがあるでしょう。買えば高価だし、当時はレンタルするにも1日30万円くらいかかったんですよ。それで、カメラが高価だからか何だか知らないけれど、このカメラで撮影されたPVとかを見ると、大抵は水がバシャっと弾けたり女の人の髪がフワッ浮いたりするような、いわゆるキレイなシーン、つまり、いい所ばかりを切り撮っているんですよね。そこに不満を感じていたんです。

――不満、といいますと?

 

大月 もっとくだらないものをくだらなく撮れるだろう、と。

 

――数百万円のハイスピードカメラで “くだらないものをくだらなく”、ですか(笑)。

大月 だけど、当時僕の所にはハイスピードカメラを使えるような案件が回ってこなかったこともあって、フラストレーションがたまっていたんですね。そんな時に、民生用の安いハイスピードカメラがタイミングよく出てきたんですよ。カシオのエキシリム。確か10万円ちょいだったと思うんですけど、最大で秒間1,200フレーム撮れるやつ。「よし、キタな」って思って、それを買って届いたその日に撮ったのがアレなんです。

――そうなんですね。

大月 とにかく撮ればスローになるっていうのは解ってるから、当時住んでいた中目黒のシェアオフィスの住人に「ねえ、ちょっと来て」って言って、道に呼び出して。それで撮ったのがDVDの1発目に収録されている映像。あれがカメラを買ってからの初回しです。

――1発めが本番だったとは意外です。

大月 それで、「おっ、(スローに)なるなるなる!」ってそこにいた人達と、まるで初めて火を発見した原始人みたいに盛り上がって(笑)。それから事務所の人間を片っ端から撮ったあとに『After Effects』で読み込んで、音楽を付けようと思って、1発目でNujabes feat Shing02の曲をを選んでたんですよね。「これは合わないだろう」って思って(笑)。


■SNSでそれまでにないレベルの反応が返ってきて

――「合わないだろう」って(笑)。でも、実際できあがった作品は映像と音楽が絶妙にマッチしていたと思います。

大月 合わなさも込み込みの絶妙なマッチングっていう直感でしかなかったんです。ゴールとか想定してないですし、事前に何も考えてませんでしたから。「これが一番面白くなるだろう」っていう音楽を選んだんですけれど、みんなで見たら「なんか普通にいいことをしたって感じになってきたねぇ」って気分になったんですよ。当時SNSはmixiが主流で、僕もやっていたんですが、そこで動画共有ができたんですよね。で、アップしたら、それまでにないレベルのリプライが返ってきた。「これ面白い!」みたいな。

――FaceBookで「いいね!」が数100回つくような感じですね。

大月 そうそう。で、ちょうど同じ時期に、フリー編集者の古屋(蔵人)君がTOKYO CULTUART by BEAMSディレクターの永井(秀二)さんとDVDのレーベルをやろうっていう企画をたまたま温めていて、「『バカ走り』をDVDにしようよ」って言ってくれたんですね。ここでようやく出口が設定されたわけです。それから100人分を撮りためたんですよ。

――インターネットで共有されたほうのバージョンでは、Nujabes feat Shing02さんの楽曲が使われていたのに、DVD版ではEVISBEATSに変わっているのはどうしてなんでしょうか?

大月 DVD化するにあたってNujabesさんとShing02さんの許可をとらなければと考えた時に、難しいだろうという話になって。それでEVISBEATSさんに曲を作りおろしてもらって。…なんだけど、どうしてもNujabes feat Shing02バージョンも世に出したいと思って、それで、「アホな走り集」と名前を変えてニコニコ動画にアップしたんです。「バカ走り」で出すとBEAMSに怒られるかなと思ってね(笑)。あと、DVDの宣伝のために見せたいわけでもなく、作品として見て欲しかったんですね。宣伝として出すと視聴者の見る意識が変わっちゃいますからね。そんなふうにコッソリと放流したら、そっちがバズッちゃったっていう。

――Youtubeのほうは、視聴数が300万近くありました。

大月 そのくらい行きましたね。

~では、その映像を見てみましょう~

――ちなみに、DVDは「バカ走り」と「バタフライスロー」、そして「僕らもバカ走りをやってみた。」の3つのチャプターで構成されています。この構成にした理由は?

大月 30分を埋めるために全部作ったって感じです(笑)。「何分くらい総尺が必要?」って、古屋君に聞いたら「30分くらい」って言ってたから。言ってみれば、メインチャプターの「バカ走り」だけが作品で、ほかはオマケみたいなものなんですよ。ただ「バタフライスロー」も何気に面白い映像ですけどね。浮浪者みたいなおじさんの手拍子が世界の様々な事象に影響を与えてるっていうコンセプトが秀逸(笑)


■殻を突き破った、人それぞれのオリジナルなスタイルが見たい

――メインチャプターの最初に、大月さんご自身が登場しています。そのあとに、様々に個性豊かなキャストが続々と登場するのですが、出演者のみなさんはどういう方たちなんですか? たとえばランニングシャツを着た、メガネをかけて歩道橋の上を走ってくる太った男性。まるで80年代の香港映画に出てくるようなこの方は……?

大月 あの人は友達の友達で、塾の数学の先生です。案外遊び人で、クラブ遊びが好きな人なんですよ。僕もクラブで紹介されて。それまで撮影済みの映像を見せて「やらない?」って誘ったら「やるやる!」みたいな。彼の走りには彼らしい、いいスタイルが入ってますよね。ちなみに、住宅街の駐車場から走ってくる子供は僕の子どもです(笑)。この頃は無邪気だったな。今はもうクソ生意気ですけど。

「普通の人だってみんなアホだろ」オモロ気持ちいい映像作家:大月壮インタビューの画像4父。「アホな走り集」より

――もしかすると、大月さんのお父さんも出演していませんか?

大月 はい。お父さんもいます。ファミリービジネスですね(笑)。

――やっぱり(笑)。お父さんの来ているTシャツにプリントされた犬の写真がなぜか気になったんですよね。

大月 いいところに気が付きましたね! うちのお父さん、死んじゃった愛犬の写真を何にでも貼り付けるんです。ポロシャツにすら貼っていて。「バカ走り」で着ているのもオリジナルTシャツです。あと、これは実家のお隣のおばちゃん。

――え、隣のおばちゃんですか。

大月 ノリがよくてね。おばちゃん家に行ったらリビングに水着が3つ並んでて、スイミングキャップもこう3つ並んでて。

――やる気まんまんじゃないですか(笑)。

大月 そうそう。実際に走ってもらった映像もあるんですけれど、走ってない映像が面白かったんで「バカ走り」に入れたら、「(バカ走りなのに)走ってねーじゃん」っていうツッコミが、ニコニコ動画でいっぱいあってよかったです(笑)。

――キャスト選びに何か基準はありましたか?

大月 多種多様なキャラクター、老若男女とか太った人とか人間のバリエーションは揃えたかったんですよね。お笑い芸人のような特殊な人だけが集まって面白いことをやるんじゃなくて、「普通の人だってみんなアホだろ」っていう普遍的なことが言いたかったんですよ。

――そんなことが言いたかったんですか(笑)。

大月 言いたかったんですよ(笑)。アホっていうとあれですけど、みんなバカな事したり話たりして笑うの好きじゃん、そういうのが人間の生活の基本じゃん、っていうか。普段は鎧着てマジメな顔して生きてるけど本当は鎧脱いで遊びたいんだろ?みたいな(笑)。

――演出はどの程度加えたんでしょうか?

大月 「俺のマネをしてほしいんじゃない」ということは言いました。まずはどんな感じで走るかっていうテンションを見せなくちゃならないから、先に僕が「こんな感じだ」ってやって見せるんです。ビデオじゃわからないけど、奇声も上げてるんですよ。もうテンションMAXなんで。そのうえで「俺のマネをしてほしいんじゃない」と。「お前の発するオリジナルなスタイルが見たいんだ!」って伝えました。でも、個性ってなかなか出ないんですよ、ホントに。10人に1人くらいですかね。やっぱりみんなお手本をなぞっちゃう。

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