【死刑囚の実像】冤罪を主張する不機嫌な男 ― 16人死亡、大阪個室ビデオ店放火殺人事件

■報道と別人のようだった容貌

 まず、恥ずかしながら筆者は小川が面会室に現れた時、彼だとすぐに分からなかった。というのも、マスコミ報道で見かけた逮捕当初の小川は、顔がやつれて血色が悪く、髪がぼさぼさで、いかにも生命力の弱そうな中年男に見えた。だが、この日の小川は顔がふっくらし、髪もすっきりと短く刈られ、精悍な顔つきの男になっていた。逮捕当初とはあまりに容貌が変わっていたため、筆者は目の前の小川を別人だと誤認し、何らかの手違いがあったのではないかと戸惑ってしまったのだ。

 「分かりませんか?」と小川に不機嫌そうに言われ、筆者は目の前の男が小川なのだとようやく理解した。とっさに「報道の印象とずいぶん違いますね……」と取り繕ったが、小川は逮捕当初よりふっくらした頬を手で撫でながら、「5年も経ちますからね」とだけ言った。事前に送った取材依頼の手紙では、小川に対する裁判の有罪認定に疑問を感じていることを伝えていたのだが、歓迎されていないことがひしひしと伝わってきた。

「いまさら取材に来ても遅いんじゃないですか」

「まあ、物見遊山で来られたんでしょうけど」

 小川は筆者に対し、そんな厳しい言葉もぶつけてきた。報道からは気弱な人物のような印象を受けていたが、実物の小川はけっこう気が強そうだった。いずれにせよ、筆者に対する小川の批判的な言葉はまったくその通りなので、筆者は恐縮しながら「ええ、まあ……」とか、「小川さんがそう思われても仕方ないですが……」などと言うほかなかった。

「今さら記事にしてほしくないんです。今日は遠くから来られたんで、それだけお伝えしようと思って会いましたけど」と小川は言った。冤罪の疑いを抱いているという取材者に対し、「記事にしてほしくない」という被告人。奇異な印象を受ける人もいるかもしれないが、筆者は小川の気持ちがすぐ察せられた。次のような小川の逮捕当初の報道に目を通していたからだ。

《「戸籍まで売った」リストラ男の“狂気”》

《個室ビデオ店「放火犯」は人生を「マザコン」で狂わせた!》

《金髪、毛皮の46歳が見せていたリストカットの傷》

《46歳リストラ男「超有名企業」の過去と狂気 離婚、ギャンブル、サラ金…底辺をさまよった末に》

 以上はすべて逮捕当初の週刊誌の見出しに踊った言葉だが、このように扇情的に書き立てられたら、小川がマスコミ不信に陥ったのも無理はない。裁判が大詰めになった時期になり、どこの馬の骨とも知れないフリーのライターがいきなり「取材させてください」とやって来ても、信じることなどできないだろう。

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