【死刑囚の実像】冤罪を主張する不機嫌な男 ― 16人死亡、大阪個室ビデオ店放火殺人事件

■最高裁に黙殺された鑑定書

 ただ、小川は言うべきことはちゃんと言う人物でもあった。

「はっきり言うて、冤罪ですから。最高裁にも『火元が違う』言うて、弁護士さんが鑑定書出していますからね」

 堂々とした物言いだった。そこで筆者は一応、「じゃあ、状況が変われば、取材を受けてもらえますか?」と粘ってみた。だが、小川は「もう記事になりたくないんで」と素っ気なかった。そして、「もういいですか。帰りますよ」と言い、面会の終了時間を迎える前に刑務官と一緒に面会室を後にしたのだった。

 小川が最高裁に上告を棄却されたのは、この約半年後のこと。その判決文は裁判所のホームページにアップされているが、わずか2枚の簡略な内容で、小川の弁護人が逆転無罪のために提出したという鑑定書に一切言及がなかった。一方で判決は小川のことを〈その犯行は、人の命を軽視した極めて悪質で、危険なものである〉と批判し、死刑判決を〈是認せざるをえない〉と言い切っていた。

【死刑囚の実像】冤罪を主張する不機嫌な男 ― 16人死亡、大阪個室ビデオ店放火殺人事件の画像3※画像:小川の死刑を確定させた最高裁の判決文はわずか2枚

 今年の3月6日で、最高裁の判決が出てからちょうど1年。昨今は死刑判決確定後、執行されるまでのスピードが速くなっているが、小川が再審請求をしたというニュースは今のところ聞こえてこない。筆者は面会した際、小川の堂々とした冤罪主張に正直信ぴょう性を感じさせられており、その行く末がけっこう気になっている。
(文=片岡健)

ノンフィクションライター。全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書に『平成監獄面会記』(サクラBooks)、編著に『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(KATAOKA)など。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会記」』(カルトコミックス、作・塚原洋一)が8月8日に発売。
Twitter:@ken_kataoka

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