麻原彰晃の三女アーチャリー“何もわからない”から謝罪なし? 娘の中の真実とは?

 今年はオウム真理教事件の象徴ともいえる地下鉄サリン事件の発生から20年。この節目に教祖であった麻原彰晃三女の、松本麗華著『止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』(講談社)が出版され、話題となっている。事件当時11歳であった彼女は本書で素顔と本名を明かし、『NEWS ZERO』(日本テレビ系)に出演。さらに、ニコニコ動画ではジャーナリストの田原総一朗氏との対話も行っている。

 一方で彼女の妹にあたる四女が『スーパーニュース』(フジテレビ系)に出演し、本書を「デタラメな本」と断罪している。内容の妥当性について早計に判断できるものではないが、本書は刊行に際して生ずるであろう批判を含め、広く読まれるべきだ。


■娘から見た麻原の人となり

 まず、本書で着目すべきは、家族の立場から見た、麻原の人となりが記されている点である。1980年代、千葉県船橋市に住んでいた当時の麻原は、自宅の一室に手作りの「瞑想室」を設けていたようだ。「壁には宗教画が掛かり、棚には仏像が収められ、その棚の前には白いちゃぶ台がある」(p.22)質素なものだが、麻原は日に一度は部屋にこもり、祭壇に捧げ物をしていた。後に教団が教義で定める不殺生も律儀に守り、蚊すら殺さないなど、ずいぶんと信心深い印象だ。事件時に報道された、女好きで肉好きな俗物の姿からは遠くかけ離れている。

 同じく「実は見えているのでは」と言われた視力に関しても、彼女の幼少期の記録として、

 「テレビにくっつくほど顔を近づけて野球中継を見ていたのを思い出します(中略)父の目が悪く、そこまで近づかないと見えないとわかったのは、ずっと後のことです」(p.18)

 とある。本書では麻原が視力を完全に失ったのは35歳の時だと記述されている。教団の歴史でいえば、山梨県の富士宮市およびサティアンのある上九一色村(当時)にサティアン(教団施設)が建設された頃にあたる。

 さらに、教団が被害を主張していた外部機関からの毒ガス攻撃に関しても、興味深い記述がある。

「父は明らかに幻覚、幻聴があり、一九九三年ごろからは、アメリカから毒ガス攻撃を受けていると本気で言っているように見えました。車に空気清浄機をつけ、ホテルに着けば、大まじめに目張りを指示しました。近くをヘリコプターが通れば、毒ガスだと言っていつも車に急いで乗り込んで退避するようになりました」(p.65)

 はたから見ればただの被害妄想と片付けられるものでも、当人は本気であったことが分かる。荒唐無稽な陰謀論でも、教祖の言葉ならば信者たちには無批判に受容されてゆく。さらに、麻原自身は視力が徐々に失われ、外部との情報が隔絶される。麻原が得られる情報は、社会性を欠いた信者たちの言葉を通してのみだったようだ。

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