大量のクモが空から降ってきた! 知られざるクモの生態=オーストラリア

 クモの巣で覆われた町――。まるでホラー映画のワンシーンのような光景を収めた写真が先頃ネットに拡散し話題騒然に! いったいなにがあったのか?

■小さな町がある日クモの巣にすっぽり覆われた!

 5月初旬に豪・サウスウェールズ州にあるゴールバーンの町がなんとクモの巣にすっぽり覆われてしまった。おびただしい数の小さな黒いクモが巣と共に、季節はずれの雪のように空から降ってきたというのだ。

大量のクモが空から降ってきた! 知られざるクモの生態=オーストラリアの画像1画像は「YouTube」より

 町の住人であるイアン・ワトソン氏は、このときの“雪”に当たり、頭髪もヒゲも小さなクモだらけになったと話す。

「クモの巣に覆われた我が家を見たときは、クモに乗っ取られた幽霊屋敷かと思ったよ。辺り一帯がクモの巣に覆われていて、見上げると空中に漂うクモの巣の大群が陽の光を反射し、何百メートルもある大きな土管が空に向かって伸びているように見えたね」とワトソンさんは「Sydney Morning Herald」紙の取材に応えている。

 また「それは美しい眺めではあったんだけどね……。でも、私の髪の毛にもヒゲにも小さなクモが入り込んできて、そりゃ不快な思いをしたさ」と、クモ嫌いな人が聞けばゾッとするような体験をワトソンさんは述懐した。

 しかしこれはいったいどういう現象なのか、不思議に思ったワトソンさんは、地元コミュニティのFacebookページに「何百万もの小さなクモが空から降ってくるなんてことに出くわしたことがある人はいないか?」と書き込んだのだ。


■風に乗ったクモの旅「バルーニング」とは

 ワトソンさんが書き込んだ質問にはすぐさま反応があった。

 まず回答者の1人、オーストラリア博物館のマーチン・ロビンソン氏によれば、クモが降ってくる現象には2つの説明ができるという。

大量のクモが空から降ってきた! 知られざるクモの生態=オーストラリアの画像2画像は「YouTube」より

 1つめは「バルーニング(ballooning)」と呼ばれるクモの持つ拡散分布テクニックだ。背の高い木や植物にのぼったクモが、突き出した尻から糸を出し、それをパラシュートのように使い、風に運ばれて遠くの土地へと移動する手段である。赤ちゃんグモがよくとる行動だが、ときには成虫のクモもこのバルーニングを行うという。

 クモはバルーニングによって、地上3,000m上空にまで浮遊することもあり、移動距離は数kmから場合によっては大陸を超えて移動することもあるという。クモが世界中のどこにでも分布しているのはこのためだとされる。ときには南極大陸にさえ飛来することもあるという。しかし残念ながら到達後はただ死んでしまうだけだが……。

 また「火山活動によって新しく出現した土地に最初にやってくる生物はたいていの場合はクモです」とロビンソン氏は述べている。クモの行動範囲は驚くべき広さなのだ。

 さらに驚くべきことにクモは9種類もの糸を必要に応じて分泌することができるという。そのため、バルーニングの際には粘着力がない糸を出せるそうだ。獲物を捕らえるためのあの粘つくクモの巣の糸とは違う糸なのだ。したがって、クモの巣に覆われたワトソンさんの家も比較的容易に糸を取り除くことができたものと思われる。ロビンソン氏も「今回の現象が人間に害を及ぼすとは考えられないので、心配する必要はありません」とワトソンさんを安心させている。

■集団バルーニングの2つの推測

 もう1人の回答者は、2001年から地元のクモの観察、研究を行っているキース・バスターフィールド氏だ。彼は、今回の現象が起きる直前の気象条件がバルーニングに最適だったため、アウトバック(オーストラリアの内陸部)で生まれた赤ちゃんクモがチャンスを逃すまいと一斉に“風に乗った”のではないかと指摘している。そして風の流れでこのゴールバーンの町に集中して舞い降りたのだという仮説を打ち出した。

 また先のロビンソン氏も同様に2つめの指摘として気象状況の変化を挙げている。大雨か洪水の後に集団バルーニングが起りやすいというのだ。普段は地表や地中で活動する種類のクモも、地面が濡れた際には樹木などを伝って、高い場所に避難する。大雨や洪水であればしばらくは、地面に降りられないことになり、それならば“風に乗って”ほかの土地を目指そうということになるのだ。したがって、今回の現象に先駆けてオーストラリア(海外もあり得るが…)のクモが多く生息するどこかの地域で洪水や大雨があった可能性もある。


 ともあれ、風に乗って世界のどこへでも躊躇なく“引っ越し”して現地でたくましく生きているクモの知られざる生態が、奇しくも今回の件で世に知られることになった。グローバル化が進み、ますます世界が狭くなった今日の我々も、バイタリティ溢れるクモの生き方に学ぶことがあるのかもしれない。ひょっとして、火星移住の一番乗りをクモに奪われちゃったりして……!?
(文=仲田しんじ)

参考:「Sydney Morning Herald」、「Mirror」ほか

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場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
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