パキスタンの「ラットピープル」― 原因は近親相姦か虐待か?全員ネズミ顔の謎

パキスタンの「ラットピープル」― 原因は近親相姦か虐待か?全員ネズミ顔の謎の画像1画像は、「AFP news agency」公式動画より

 子宝祈願で有名なイスラム寺院の前で来訪者に物乞いをする貧しい子たち――。その中でひときわ小銭を集めているのが、生まれつき頭の小さな小頭症の子どもだという。彼らはどこから来て、なぜここで物乞いをしているのか。調べるうちに、パキスタン社会の闇が垣間見えてきたのだ。

■神に近い存在である“ラットチルドレン”

 インドと国境を接するパキスタンのパンジャーブ州・グジュラートにある17世紀に建立されたシャー・ダウラ寺院はイスラム教スーフィー派の聖者、シャー・ダウラを崇める寺院である。ここはまた、子宝にご利益のある寺院としても有名で、昔から子宝に恵まれない夫婦が最後の頼みの綱としてここを訪れて、祈祷を受け、結構な額のお布施を寄進してきた。

 この寺院の前で信者から多くの賽銭を集めているのが小頭症の子どもたちだ。顔がねずみに似ていることから“ラットピープル”あるいは“ラットチルドレン”と呼ばれている。

 数百年も前から続く伝承に「ここでお祈りを受けて授かった第一子は、頭の小さい小頭症の奇形児として生まれる。親はその第一子をここシャー・ダウラ寺院に引き渡さなければならない。この教えを怠ると、その夫婦が授かる子どもはその後もすべて小頭症児になる」というものがある。

 小頭症の子どもたちは高い確率で知的発達が進まず、視力や聴力をはじめ話すことも困難なケースが多いという。しかしスーフィー派の教えでは「ラットピープルは神に近い存在であり、信者は決して彼らを無視してはならない」と説かれているのだ。この寺院では昔からラットピープルたちを多く保護し、寺院内に住まわせてきた歴史的事実もある。そして寺院の前に座った彼らの手元には、信者からの賽銭が“自動的に”集まるのだ。

 しかしパキスタンの近代化が進むにつれ、このラットピープルは児童搾取や人権上の問題に抵触するとして、1960年代には政府によって寺院による小頭症児の保護・収容は禁止された。だが以前からこれに目をつけていた地元のマフィアは、小頭症児を親から“買い取る”などして自前でラットピープルを揃え、街のいたるところで物乞いをさせて賽銭を集める「物乞いビジネス」を始めたのだ。

 公務員の2倍の稼ぎがあるという彼らは、マフィアの積極的な“リクルート”で増え続け、全盛期には1万人もいたといわれている。1980年代には政府の大規模な捜査が入り、大半の「物乞いビジネス」が摘発されて彼らも解放されたものの、一部では今なお、ラットピープルを利用して稼ぐアウトローが存在しているということだ。

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