佐藤信太郎撮影:荒川区南千住2005『非常階段東京』より
■街全体、すべてが等しい価値を持っている
――『非常階段東京』を見ていると、いろんな発見があります。このマンション上から見ると面白い形をしているな、とか。この街は全体的に色が“黄色っぽい“とか“赤っぽい”とか。
佐藤 見る度に発見がある作品を撮りたかった。そのために気をつけたのが「等価」を目指すということ。手前がきれいで、うしろはぼやけている写真だと、ボヤっとしたイメージになってしまうので、できるだけすべてをカッチリ見せたかった。そういう意味で、撮影時間は夜を選んだ。場所によっては、晴れだと影がきつかったり年中逆光だったりするし、曇っていてはクリアに見えない。最終的に、晴れた日の夜がいいということになった。それで2002年から6年間くらいかけて写真を撮り続けて、厳選して、厳選して、『非常階段東京』ができあがった。
――全部をクリアに見せるということに哲学的意味は?
佐藤 哲学的意味とは違うかもしれないけど、とにかく街の細部を見たいという強い欲望がある。等価に見せたい=全部を見たいという自分の気持ちだと思う。拡大すると遠くの部屋の中の食卓のメニューが見えるとか、それくらい細かく見えるような作品に仕上げることで、より見るものが多くなるでしょ。“等価”だと、見る人によって見方が変わってくる、そこが面白いと思った。
――マンションや看板などに書かれた字を追うのも楽しいです。
佐藤 そうですね。いくら見ても見飽きない、つまり、パっと見て「こんなイメージか」でお終いではない作品を作りたかった。見尽くせないから、何度も見る。それが写真の強みだと思っている。だから「文字」などがはっきり見えるように、細部描写にはこだわった。