佐藤信太郎撮影:新宿区歌舞伎町2005『非常階段東京』より
■写真でしかできない表現を求めぬならポエムでも書いていろ
――イメージ写真が見飽きるというのは……?
佐藤 作者のイメージを写真を通して表現するということは、写真はあくまでも“手段”ということになる。自分の気持ち(イメージ)を表現したいならポエムでも書いていればいいという話になる。伝え方が難しいけど、自分の悲しい気持ちを表現するために、モワっとした写真を撮るのと、インパクトを受けたものを表現するのは似て非なるものだと思うんだ。内面を表現するのと、衝撃を受けた光景を自分とカメラを通して写真にするのとは違う。うまく言えないけど、自分の何かを表現しているつもりでも、実はコマーシャル的なありふれたイメージを再生産しているだけのことが多い。もちろん質の高いものも数多くあるけれど。その点、僕は、写真そのものを見せるということから離れたくないというのが核にある。写真の性能を引き出して、写真でしかできない表現である必要性を追い求めている。
――『非常階段』の中で、一番思い出に残っている写真はありますか?
佐藤 大変だったのは表紙の歌舞伎町の写真かな。今はもうゴジラとかになっちゃっているけど、コマ劇の上から撮った写真。一応許可とって撮影したんだけど、夕方になると天気が変わったりして撮り直しも多くて、向こう(ビルの管理人)も嫌がるし、プレッシャーがかかったね。やっぱり街並みのうねりを感じられる面白い場所は好き。
■“センス無き”魅力的な街並みが消えた日本
――色々な町を撮影されていますが、地域の変化は感じますか。
佐藤 味のある場所だったところが、跡形もなくなったりしているね。区画整理されたりして、町がどんどんつまらなくなった実感はある。歌舞伎町は確実にきれいになっていってるしね。少し前に行った時は相変わらず「パワー」はあったけど、面白さはやっぱり落ちていた。
――パワーとは?
佐藤 町の歴史を背景にして作り上げられたその場所固有の雰囲気のこと。歌舞伎町に関しては猥雑さが滲み出てくる街の雰囲気。さびれちゃったのは蒲田とかかな。昨年末、久しぶりに訪ねてみたら以前ほど面白く感じなかった。全体に言える傾向だけど、個性的な店がなくなっていて、店がチェーン店化、均質化している感じがつまらない。場所の固有性が弱くなってしまっている。つい最近ニューヨークにも行ったけど、ニューヨークには「ローソン」も「ドトール」もない。チェーン店が少ないってことね。だから、個性的な店が多くて魅力的な感じがした。都市としてのつくりも面白くて、よく見ると古い建物が残っていたり、同じ茶色でもいろいろな茶色があって街がカラフル。日本は地震対策としての区画整備が必要なのわかるけど、街が均一化してしまって面白くなくなっていく方向をたどっているという気がする。もちろんまだ面白いところはいっぱいあるけどね。
――日本は町づくりのセンスがないのは、外国を見るとわかります。
佐藤 そのセンスのなさが、おもしろさにつながっていたんだけどね……。