『進撃の巨人』の元ネタ映画「フランケンシュタイン・シリーズ」がトラウマレベルの傑作!!

■『サンダ対ガイラ』

 さて、翌年の東宝は『フラバラ』の続編ともいうべき『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』を発表し、これがまた前作に勝るとも劣らない衝撃作となる。ちなみに完全な続編ではなく、独立した作品として成立させるため役名や設定が多少変更されている。

 前作で死んだと思われたフランケンシュタインが、山に棲む「サンダ」と、海に棲む「ガイラ」に細胞分裂する(海彦山彦だ)。茶色の体毛で覆われたサンダは優しい性格を持ち、育ててくれたアケミ(前作から続投の水野久美)に対する思慕の念を忘れていない。反面、海藻のような緑色をしたガイラは凶暴で、「人食い」という人類にとって最悪の属性を備えていた。クローンである2匹は、性格の不一致から骨肉の闘争を余儀なくされる。

 今回は人間ドラマより、2大怪獣の格闘とガイラ退治に出動する自衛隊のリアルなミリタリー描写に特化した、戦闘描写重視の怪獣映画となった。そして最大の特徴は「ガイラの恐怖」に尽きる。前作のバラゴンと異なり、ガイラは家畜には目をくれず人間のみを捕食する。漁船を襲い、泳いで逃げる船員たちを後ろから追いかけ、次々と掴み上げてムシャムシャ。羽田空港では管制ビルの窓から手を突っ込み、花束を持った女性事務員を鷲掴みにして口に放り込み、モグモグしてから「ペッ」と花束だけを吐き出す(海外公開版ではボロボロになった女性の服。そっちの方が怖い)。恐竜型の怪獣が人を食うより、人型の怪獣、つまり巨人が人を食うビジュアルの方が生理的に怖い。それは『進撃の巨人』で納得済みであろう。「キシェーッ」という脳ミソ空っぽな鳴き声もまた、生理的嫌悪を増幅する。

 そして、ガイラを攻撃する陸上自衛隊の架空兵器「メーサー殺獣光線車」のカッコよさ。パラボラ型の先端部がコブラのように鎌首をもたげ、光学撮影によって描かれた光線がガイラに畳みかけて命中。これに「ゴジラのテーマ」でお馴染みの伊福部昭による勇壮なマーチ曲がガンガン流れて戦況を盛り上げる。怪獣映画史上最高峰と言っても過言ではない名シーン中の名シーンだ。

 ラスト、東京湾で死闘を繰り広げる2大怪獣は、突如発生した海底火山の噴火により沸騰した海で、藻屑と消えていく。日本の怪獣映画が大好きなクエンティン・タランティーノは『キル・ビルVol.2』(04年)で、この辺りの格闘シーンをユマ・サーマンとダリル・ハンナに見せ、演技の参考にさせたというのは本当の話。他にも井筒和幸監督の『岸和田少年愚連隊』(96年)に登場するサンダとガイラと呼ばれる不良兄弟(本当の双子が演じている)などパロディの例は枚挙にいとまがなく、『サンダ対ガイラ』は国内外のクリエイターに影響を与えている。

 西洋のモンスターホラーと日本の怪獣映画という異国の伝統芸同士が、まるでフランケンシュタイン博士の実験のように化学反応を起こし、奇跡的な作風を生んだ2作品。9月の『進撃の巨人』後篇の公開までに、この2本をDVDで予習しておくことをお勧めする。
(文=天野ミチヒロ)

■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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