村田峰紀《村田式マッサージ》 部分
さて、今度は日本の作家も見てみよう。
写真は、村田峰紀による彫刻作品《村田式マッサージ》である。タイトルこそコミカルであるものの、ビジュアル的にはかなりショッキングな作品だ。何せ、中身をくり抜かれているのは、日中辞典など、各種の外国語辞典である。そしてその削りかすは、別の場所に用意されたマッサージ台にばら撒かれている。しかしなぜ、本来、異言語間のコミュニケーションに役立てるべき外国語辞典を、このような無残な姿に変えてしまったのであろう。日台交流を趣旨とする本展においては、もっともそぐわない作品に見えなくもないが……。
2007年、村田は台北市に派遣されるあたって、ある不安を抱えていた。それは言語を介した意思疎通である。彼は、中国語はおろか英語すら話せなかったのだ。しかし、その不安は杞憂に終わった。村田は、台北滞在の3カ月間、人並み以上にコミュニケーションを積み重ねていったのである。それも言葉ではなく、身振り手振りによって。あるいは絵を描くことによって。
展示会場では、村田が猛烈な勢いで外国語辞典をくり抜く様子が映像で公開されている。そのさまは、たしかに狂気めいている。だがこの行為の本義は、コミュニケーションの扉を閉ざすためではなく、むしろ大きく開いていくためのものなのだ。当時、村田は身体表現を前提としたドローイング作品によってすでに定評のある作家だったが、台北での成功体験が彼に自信を深めさせたであろうことは想像に難くない。この、一見すると荒々しい行為の痕跡からは、言葉の壁を打ち破っていくための静かな覚悟がひしひしと伝わってくる。