“吊るす”概念が消えた!! 上下左右自由自在に動くエレベーター「Multi」とは?
運搬するということだけで言えばエレベーターの歴史は紀元前まで遡るが、今日の原型である落下防止装置のついたエレベーターは1853年のニューヨーク万国博覧会にて発表された。それから約160年以上たち、さまざまな技術革新があったものの依然解決されない問題が残っている。そう、待ち時間だ。大きなビルでは、複数台のエレベーターに行き先の制限を付け分散化させたりしているが、待ち時間を大きく減らす全く新しいシステムが開発研究中だ。
■世界初、ロープいらずのエレベーター
今までのエレベーターは、専用の昇降路を電動モータによってロープで吊るしたかごを上下させるというのが一般的であった。1つの昇降路に1つのエレベーター。しかし、この度ドイツの工業メーカー・ティッセンクルップ社が開発に取り組んでいる「Multi」と名付けられたエレベーターは、従来の方式とは全く異なり、リニアモーターカーに使われる原理でレール型のシャフトにそって移動することで、上下だけでなく左右にも自由自在に動くことができるという。まるで1971年に公開された映画「夢のチョコレート工場」に出てくるガラスのエレベーターを彷彿とさせる画期的なシステムだ。もう従来のロープとはおさらばということだ。同社は2016年には試験運用を目指している。
図のようにエレベータのシャフトに沿って走るコイルによって磁力が生じることでエレベーターが浮遊することができ、電流の向きを反対にすることでブレーキがかかる。このリニアモーターカーのシステムによって、エレベーターは上下左右に移動することが可能になるのだ。このシステムによって一度に輸送できる人数は50パーセント増え、さらに必要な設置面積は従来の半分に抑えることができるという。また、1つの昇降路に対して複数台のエレベータを走らせることが出来るのも相まって、輸送の効率化も相当期待できるという。「Multi」が本格始動すれば、エレベーターの待ち時間は相当軽減され、いつかいつかとイラつくこともなくなるだろう。
■Multiがもたらす将来像、待ち時間だけではない!
都市部に乱立するビル群は既に飽和状態である。東京においても2020年のオリンピック開催に向け、国家戦略特区での容積率緩和などの追い風もあり、湾岸や東京駅周辺に加え、虎ノ門・赤坂地区、品川・田町地区、浜松町・竹芝地区などでも超高層ビルの建設ラッシュだ。「メガシティーにおいて革命が必要とされている。『Multi』によって、設置面積の軽減と運搬効率の飛躍的な改善が見込める」、とティッセンクルップ社は指摘している。「Multi」がもたらす革新は待ち時間の削減や設置面積の問題だけではない。
吊るすという概念が無くなることで、ビル自体の構造も制限なく自由に造ることが可能になるのだ。今までだったらエレベーターの制約のために作れなかった複雑な形の建物でも建設することが可能になる。また、既存のビルを建て増しして階数を増やす場合にしても、従来のように1からエレベーターを取り替えるようなことはしなくて済むのだから非常に画期的だ。土地不足に悩む都心部においては狭い土地においても超高層ビルを建てることにより、床面積が確保できる。「Multi」はその構造上、高さに制限がない為、これからの都市開発にまさにぴったりなのだ。「建築家が夢に見たような作品を思うがままに造ることができるようになるのだ。よりコンパクトに設計できることは、環境にもやさしいのだ」、とティッセンクルップ社は語る。
実現すれば、都市には様々な形のビルが出来るかもしれない。今までエレベーターのために四角い箱が当たり前だったビル1つ1つに個性が生まれれば実に面白いだろう。この新システム「Multi」は2016年の末に、ドイツ、ロットヴァイルにあるタワーにてテスト運用されることになっている。それまではティッセンクルップ社にてプロトタイプでテストが続くとのことだ。
(アナザー茂)
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2024.10.02 20:00心霊“吊るす”概念が消えた!! 上下左右自由自在に動くエレベーター「Multi」とは?のページです。エレベーター、アナザー茂、Multiなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで