人間の女性だけが経験する閉経&更年期の謎! 人類に埋め込まれた「おばあちゃん仮説」とは?(遺伝子研究)
いきなりで恐縮だが、なぜ女性には更年期や閉経があるのだろうか――。
■なぜ人間の女性に更年期と閉経があるのか
人間界では当然の更年期も、動物界ではレアケースだ。哺乳類の中で更年期を経験するのはアカゲザル、オランウータン、チンパンジーくらいで、閉経にいたってはシャチとゴンドウクジラのみとといわれる。考えてみれば、生殖能力のピークを過ぎて、さらに閉経しても、その後もアクティブに生きていられるのは人間の女性しかいないだろう。
それにしても、閉経とは奇異な現象といえる。なぜならダーウィンの『進化論』に則り、生きとし生けるものの生物学的基盤が子孫を残すことであるなら、それを残せない性質は淘汰され、集団から排除されてしまうはずだ。ほかの哺乳動物たちは死ぬ間際まで繁殖できるのに対し、ヒトのメスは50歳前後に閉経しておしまいとなる。なにゆえ、彼女らは閉経後も平均して30年近く生き続けるのか。この生物学における人類の大きな謎とされてきた更年期と閉経だが、先日イギリスで「進化生物学的理由」が発表され、注目を集めている。
英王立協会の専門誌「Biology Letters」(2月17日付)に掲載された論文によれば、「更年期は生物の進化過程での順応現象ではなく、進化上で起こった“不測の事態”」ということらしい。この研究の筆頭著者であるリパプール大学の進化生物学者ケビン・アーバックル博士は「元々、ヒトの肉体は短命にデザインされていたはずです。ところが、現在のように想定外に長く生きるようになったことから、ヒトには生殖器官の機能を失っても持って生まれた寿命を引き延ばしている状態が生じているといえます」と述べている。つまり、更年期とは生殖年齢を過ぎても存命しているために起こる、言葉は乱暴だが「用済み後のエラー作動」なのだ。
■子孫を見守る“おばあちゃん仮説”
だが、同研究ではまったく別の見解も出されている。有史以来、人類に埋め込まれた遺伝子戦略とも呼べる「おばあちゃん仮説」だ。
更年期を過ぎたシニア女性は「自分の孫の代まで生き続けることで、自分の遺伝子が確実に次の世代へとつながっていくよう保護しようとする」(ケビン・アーバックル博士)そうで、そのために閉経後も大切な遺伝子を守ろうと「究極の役目」を果たしているというのだ。
この2つの相反する仮説について、論文の共著者であるリバプール・ジョン・モーズ大学のハーゼル・ニコルズ博士は次のように語っている。「科学における意見の対立を調整するのは一苦労ですが、この適応・非適応形質論は両方とも正しいといえるでしょう。生殖システムにおける進化過程で、それぞれどの部分に理論を当てはめるかの違いだけです」。つまり、どっちもオッケーというわけだ。
また、ヒトを含む26種の哺乳類のデータを検証した結果、多くの種のメスがオスと連れ添っているときは長生きをすることも判明した。つまり、たとえ更年期障害が現れる年頃を過ぎても、同じ屋根の下で夫婦仲良く、孫の世話をするグランマは、進化生物学的には“最も発展した種”といえるのかもしれない。
(文=佐藤Kay)
参考:「Daily Mail」、「Biology Letters」、「EurekAlert」、ほか
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