麻酔なしで信者全員去勢、乳首と女性器も切除 ― ロシア、恐るべき異端の宗教「スコプツィ」とは?

――謎の中の謎に包まれた謎の国、ロシア。そんなロシアを専門家である樹海進(じゅかいすすむ)が伝える「超常現象と神秘の国ロシアシリーズ」

 日本の隣国であり、広大な国土を持つ国でありながら、多くの日本人には馴染みの薄い国・ロシア。しかしロシアは1000年以上の歴史の中でキリスト教を基盤としたヨーロッパの文化と、いわゆる「タタールの頸(くびき)」の時代を通じたモンゴル帝国の支配の中で受容したアジアの文化とを織り交ぜ、世界の中でも他に類を見ないまでの、奥深い独自の文化圏を構築してきた。

 多くの動乱や政変・革命を経験し、そして20世紀には科学技術や軍備の面でアメリカと対等に張り合うまでのソビエトという大国を形成させたロシアは、その激動と波乱の歴史の中で文学・絵画・建築・音楽・宗教そして哲学や演劇、はては映画にまで及ぶ多彩かつ深遠な文化を形成・発展させたが、戦争や革命によって失われた多くの人命の上に培われたそうしたロシアの歴史や文化を紐解くと、そこには神秘のベールに包まれた事象が数多く存在する。その意味でロシアは超常現象・超科学とは切っても切れない関係にあり、そこには異端の教義を持つ宗教や謎に満ちた怪奇人物が多く登場する

 

【第1回 スコプツィ】


■信者全員を去勢した宗教

 ロシアにはかつて、世界の歴史の中でも最も奇異な宗教が存在していた。帝政ロシア時代の18世紀末に勃興した「スコプツィ」(Скопцы)がそれである。スコプツィはコンドラティ・セリワノフ(Кондраты К. Селиванов)(1732~1832)という逃亡農民が起こしたキリスト教の一派であり、「人類の苦しみや煩悩の根源にあるのは人間の性欲・肉欲であり、ゆえに戦争や犯罪などこの世の諸悪の根源を絶つためには性器の切除によってあらゆる性欲・肉欲を断つことが必要である」との教義から信者全員に去勢を施し、最終的には全人類の去勢を目指すという過激なものであった。

sukoputi-3.jpgスコプツィの開祖・コンドラティ・セリワノフ(1732~1832)。18~19世紀の帝政ロシアという苛酷な時代に、農奴出身でありながら当時100歳という長寿を全うしたことだけを考えても、常人ならざる神秘的な力を彼が持っていたことは、否定し得ない。

 こうした教義はキリスト教の新約聖書「マタイによる福音書」第19章12節「母の体内から独身者に生まれついているものがあり、また他から独身者にされたものもあり、また天国のために、自ら進んで独身者になったものもある。この言葉を受けられるものは、受け入れるがよい。」という言葉を厳格に実践しようというものであった。(スコプツィはここに言う「独身者」を「性的不能者」と解釈し、去勢によって性的能力を除去することで、ここに言う「独身者」になることができると主張した。)

 ゆえにスコプツィはキリスト教の一派であることは間違いなく、17世紀から18世紀のロシアにおいて勃興した「霊的キリスト教」の一宗派である。

 ドゥホボール派(ウクライナに起源を持つ神秘主義・無政府主義的なキリスト教派)やモロカン派(ロシア正教の中から農奴を中心に広まった教派。教会制度や典礼を拒否し、聖書のみを信仰の基盤とした。)など、「霊的キリスト教」と呼ばれる諸宗派は、「ロシア正教会を否定した」という点では、17世紀にいわゆる「ニーコンの教会改革」に反発して正教会の主流派から分離した「古儀式派」と同じであるが、正教の教義自体を認めていなかったため、これらの諸宗派はこの「古儀式派」には含まれない。しかしながら正教会側からは「古儀式派」と同様に「ラスコーリニキ(分離派)」と呼ばれたため、しばしばスコプツィを含む「霊的キリスト教」諸派は、「古儀式派」と混同される。

※次ページ、驚愕の去勢方法

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