マルコ・ポーロは実在していなかった!? 不整合すぎる『東方見聞録』の数々が暴露される!

■浮上するマルコ・ポーロ“非実在説”

 マルコ・ポーロの“非中国滞在説”のきわめつけともいえるのは、モンゴルおよび中国側の史料にいっさいマルコ・ポーロに関する記録が残されていない点だ。フビライ=ハンのもとで政治の要職にも就いたマルコ・ポーロがまったく記録に残っていないのはやはり不自然だろう。

 まさにそのものズバリというタイトルの『Did Marco Polo Go to China?』(1995年刊)の著作を持つ大英博物館・中国セクション主任のフランシス・ウッド氏は、おそらくマルコ・ポーロ氏は黒海を越えてアジア側に入ったことないだろうと推測している。その根拠として、中国大陸の人々の日常生活にまつわる記述が皆無であるという点だ。好奇心旺盛な探検家として、中国人女性の“纏足”や食事の際に使う箸、中国茶の飲み方などは好奇の対象であっただろうし、万里の長城を目の当たりにして驚いたはずだが、そのいずれについても記述がないということだ。

 さらに釈然としない点には、商人の父親や叔父といった家族と共に中国に渡ったことになっているわりには、マルコ・ポーロの実家からは中国製の物品がまったく見つかっていないことも挙げられるという。

 とすれば、マルコ・ポーロは中国へは行っていなかったのか? ここまでは“非中国滞在説”ということになるが、実はマルコ・ポーロそのものが存在していないのではないかという“非実在説”も持ち上がってきている。そのカギを握るのが、『東方見聞録』を実際に執筆したルスティケロ・ダ・ピサ氏の人となりである。

 今風にいえばゴーストライターとして、ピサ氏はジェノヴァで捕虜となり収監されていたマルコ・ポーロからかつての旅の模様や冒険談をいろいろと聞いてまとめあげたのか『東方見聞録』ということになっている。

 とはいえ実はピサ氏は決して伝記作家などではなく、娯楽読み物を数多く書いていたフィクション作家であったのだ。また1298年に最初に出版された『東方見聞録』は非常にページ数が少ない薄い書籍であったが、版を重ねるたびにピサ氏が書き加えてボリュームが増え、次第に読み応えのある“読み物”になっていった経緯があるという。このようなことを考えあわせてみると、そもそもジェノヴァに収監されていた“マルコ・ポーロ”なる人物その人が、ひょっとすると冒険物語の主人公というフィクションなのではないかという疑惑も持ち上がってくることになるのだ。

 はたして真相やいかに? 夢とロマンに溢れた中世の大冒険家であるマルコ・ポーロが架空の人物だとすれば中世史を修正しなくてはならなくなるが、“タイムマシン”を使わないことには直接確かめることはできない。マルコ・ポーロについて今後新たな史料が出てくるとはなかなか考え難いが、研究に進展が見られるとすれは興味深い限りだ。
(文=仲田しんじ)


参考:「Telegraph」、「Ancient Origins」、ほか

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
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