【VX・サリン】英国が封印した悪魔の「人体実験」で毒性検査!? 神経ガスの歴史と仕組みの全貌
【ヘルドクター・クラレのググっても出ない毒薬の手帳】第19回 VXとVX以上の超猛毒神経ガス
【前編:VXなどの猛毒神経ガスの歴史はコチラ】
ナチスドイツの命令によって、ゲハルト・シュラーダー博士が生み出した人類史上初の神経ガス「タブン」を起点に、VX、VRガスなど強力な神経ガスが次々と誕生することとなったのは前編で紹介した。しかし、表向きでは一度も実戦投入されていないこれらの毒は、どのように毒性検査されたのでしょう? 実は、戦争がない時代にイギリスでこっそりと人体実験が行われていたことが判明しています。
●アントラー作戦/ポートンダウン研究所(英国)
1999年7月。イギリスの生物化学兵器の研究施設であるポートンダウン研究所に、警察による大規模な強制捜査が執り行われました。押収された捜査資料は膨大で、被害者と被害を確認するまで、のべ5年もかかるほどでした。押収された実験データによると、1939年から1989年までに秘密裏かつ大規模に行われていた人体実験「アントラー作戦」が判明しました。
・8000人のボランティアでのマスタードガスの毒性試験(治療試験)
・3400人以上での神経剤の毒性実験と治療(PAMなどの有効性試験/1945年)
大半のボランティア(治験者)は、多額の報酬を受け取り、その実験を口外しなかったために公にならなかったのですが、死者も出ています。
それがロナルド・マディソンという当時20歳の空軍二等兵。サリンの被爆実験(200mg)で、当然、解毒剤投与など救命処置は行われたものの、45分後に死亡。
アントラー作戦後の2004年までこのことは隠蔽されていたというもので、当時、病院へ搬送を行った救命士の手記などが公開されています。(※参考URL)
●神経ガスの毒性の仕組み
さて、このように猛烈な毒性はどこから来るのでしょうか? 神経ガスの主な毒の作用は、アセチルコリンエステラーゼの阻害による神経の過剰興奮です。
といってもナンノコッチャの人もいるかと思うので、私の連載記事「テトロドトキシン(フグ毒)」や「アコニチン(トリカブト)」のときに説明した人間の神経の仕組みを思い出しつつ、もう少し突っ込んだ作用機序(さようきじょ:薬剤の生化学的な働きや仕組み)の説明をしていきます。
まず、神経というのは神経と神経の連絡場所、もしくは筋肉や臓器なんかに繋がっている場所では、物理的にビタっと張り付いて神経の情報伝達をしているのではなく、ほんの小さな間隔があり隔てられています。その神経からの連絡に使われるのが、神経伝達物質というもので、それが受容体というものに入り、電気信号は一端、化学信号に置き換わって、再度受容体に入ると電気信号として伝達されていきます。
この神経伝達物質(リガンドとも言う)と受容体(レセプターとも)の模式図は、一度は見たことがあるひとも多いと思います。この神経伝達物質と受容体は、神経の種類や場所ごとに、それぞれモノが異なるという特徴があるというのは覚醒剤の回でも説明した通りです。
今回の毒である、VXやサリンといった有機リン系の化合物は、アセチルコリンエステラーゼを標的としています。この意味と仕組みを説明しましょう。
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