【死刑囚の実像】長崎ストーカー殺人・筒井郷太との忘れられぬ面会と手紙 ― 無罪妄想か演技か、荒唐無稽な冤罪ストーリー

――人を殺した人と会う。「死刑囚の実像」に迫るシリーズ【15】


 東京拘置所の精神科医官として数多くの死刑囚と接した作家の加賀乙彦は著書「死刑囚の記録」で、「無罪妄想」にとらわれる死刑囚がいたことを紹介している。自分は無実だと嘘をつき続けるうちに自己暗示にかかるという症状らしいが、筆者が会った死刑囚の中にもこれに該当すると思える者がいる――。


■手紙だけでわかる特異な人格

 長崎県西海市でストーカー被害を訴えていた女性(当時23)の自宅に何者かが侵入し、女性の母(同56)と祖母(同77)を刺殺する事件が起きたのは2011年の12月中旬のこと。事件翌日、長崎県警が殺人などの容疑で逮捕したのが筒井郷太(同27)だった。

【死刑囚の実像】長崎ストーカー殺人・筒井郷太との忘れられぬ面会と手紙 ― 無罪妄想か演技か、荒唐無稽な冤罪ストーリーの画像1ANNニュースより

 女性の父らは事件前、筒井による女性への度重なる暴力や脅迫メールなどのストーカー被害を警察に訴えていた。約1年半後に長崎地裁であった裁判員裁判では、筒井は無実を訴えたが、「不合理な弁解に終始し、良心の呵責や改悛の情は全く見い出せない」と死刑を宣告される。そして昨年の夏、最高裁で死刑が確定した。

 筆者が筒井に取材依頼の手紙を出したのは、長崎地裁で死刑判決が出てからまもない2013年の夏だった。ほどなく筒井から返事の手紙が届いたが、その文章は意味がわかりにくかった。ただ、「自分は無実」「真犯人はわかっている」「それらのことを証明する証拠があるのに、裁判に出させてもらえない」などと訴えていることは読み取れた。

 また、手紙には、筆者の面会を歓迎するようなことが綴られていた。

〈疑問に思う事や、「お前それは嘘だろ」と思う事は、ハッキリと言って頂いてかまいませんので、気を遣わず質問して下さい。その分、僕も必死に説明するでしょうから。それでは、いづれ会いましょう!〉

 この歓迎ぶりには、違和感を覚えた。というのも、筆者は取材依頼の手紙に都合のいいことを書いたわけではない。「報道を見る限り、あなたに不利な証拠が揃っているように思えるが、直接取材し、犯人か否かを見極めさせてほしい」と正直な考えを伝えていたからだ。筒井が特異な人物であることは、この手紙からだけでも容易に察せられた。


■満面の笑顔だったが…

【死刑囚の実像】長崎ストーカー殺人・筒井郷太との忘れられぬ面会と手紙 ― 無罪妄想か演技か、荒唐無稽な冤罪ストーリーの画像2筒井が収容されている福岡拘置所

その約2カ月後、福岡拘置所の面会室。グレーのジャージ姿で現れた筒井は、がっしりした大柄な男だった。照れたような様子を見せつつ、満面笑顔で「どうも」と会釈してきたが、筆者は正直、筒井の笑顔を薄気味悪く感じてしまった。筒井に対し、「クロ」の先入観を抱いていたせいかもしれない。

 筒井はこの日、初対面の筆者にこんな頼みごとをしてきた。

「僕の2番目のお兄ちゃんに電話かメールで、僕に手紙を出すように伝えてもらえませんか?」

 なぜそんなことを頼むのかと尋ねると、「お兄ちゃんに手紙を出したいんですが、今の住所がわからないんです」とのこと。筆者は「お兄さんはあなたに関わりたくないから、住所も教えないのだろう」と思いつつ、やんわり断ったが、案の定というべきか、筒井は人の気持ちを想像できない人間のようだった。

 この時、もう1つ印象的だったのは、筒井から無実を訴えることへの「やましさ」が微塵も感じられないことだった。


■本気の冤罪主張

 ともかくこの日以降、筒井から無実の訴えが綴られた書面や手紙、ノートが次々と送られてくるようになった。

〈ノートを読む人、みんな、信じてほしい。刑事や検事や弁護士が作った言葉じゃない、僕自身の、僕の心から出たそのままの言葉を書いたから、伝わってほしい!!〉

〈やってないことで長い間閉じ込められて、外の人には、凶悪犯と日本中に広められて、友人や家族まで思い込んでいて、死刑で殺される〉

【死刑囚の実像】長崎ストーカー殺人・筒井郷太との忘れられぬ面会と手紙 ― 無罪妄想か演技か、荒唐無稽な冤罪ストーリーの画像3筒井がノートに書き綴った切実な無実の訴え

 こういうことがクセの強い字でノートなどに連綿と綴られているのだが、肝心の主張内容は、真犯人は被害者の身内の人たちだという荒唐無稽なものだった。ただ、筒井の文章からは本気で冤罪を訴えているような切実さが感じられた。筒井によると、自分の主張はDNA型鑑定やメールの履歴など数々の客観的証拠で裏づけられているが、弁護士が「名誉棄損になる」という理由で証拠を法廷に出してくれない――とのことだった。

 弁護士も大変だろうと筆者は同情を禁じ得なかった。

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