【冤罪濃厚だった死刑囚】無念すぎる…235通の書簡から“恐怖の凄絶獄死”全容が判明! シベリア帰りの富山常喜の苦しい生涯

■病気に苦しんだ獄中生活

【冤罪濃厚だった死刑囚】無念すぎる…235通の書簡から恐怖の凄絶獄死全容が判明! シベリア帰りの富山常喜の苦しい生涯の画像3富山が獄中から篠原に届けた手紙は235通に及んだ

 富山は再審請求を2回行っているが、1987年11月に2回目の再審請求をした時は70歳になっていた。この頃から高齢と長い拘禁生活のために次第に体を弱らせていったが、篠原に宛てた手紙には病状が次のように綴られている。

 〈よく昔から「布団が重いと言い出したら、その病人は助からない」と云われておりますが、今の私が正にその状態で、布団どころか着るもの自体が吐き気、息苦しさの元凶で、出来たら裸で寝たいくらいです〉(1994年11月7日消印)

 〈近頃右目が殆んど見えなくなり、字を書いていてもペン先が二重に見えてしまい読みづらいと存じます〉(1998年8月?日消印 ※日は印がかすれて判読不能)

 こうした体力の衰えと共に富山の手紙は次第に弱気な記述が目立つようになっていく。83歳になった2000年頃以降は手紙に死期を意識したことも書くようになった。

 〈二〇〇〇年を期に新たに仕切り直しということになりそうですが、私の残り時間は益々心細くなるばかりで焦燥は隠せません〉(2000年1月16日消印)


■十分な医療を受けられずに獄死

【冤罪濃厚だった死刑囚】無念すぎる…235通の書簡から恐怖の凄絶獄死全容が判明! シベリア帰りの富山常喜の苦しい生涯の画像4富山に死刑判決を宣告した水戸地裁土浦支部


 迫る死期に焦る中、富山にとって生きる希望は再審で無罪を勝ちとることだった。しかし2013年3月、2度目の再審請求が東京高裁に棄却されてしまう。富山はその失望をこう綴っている。

 〈才判所より再審棄却の通知が参りました。例によって検察官の意見書に副った形式的なもので或る程度予想はしておりましたが、改めてがっかりさせられてしまいました〉(2000年3月27日消印)

 ペンを持つ手も重い。そんな思いがにじみ出た文章だ。

 富山はこの後、気力、体力をさらに奪われていく。そしてついに病舎に移され、寝たきりの生活となった。篠原によると、富山との面会は面会室ではなく医務室で行われるようになったという。

 〈毎日の呼吸不全状態、胃部の異状な膨満感など尋常ではありませんので、何かもっと精密な器械での検査が欲しいところです〉(2002年7月8日消印)

 この手紙を書いた頃、富山は人工透析治療を受けるようになっており、自分で手紙を書く気力もなく拘置所職員に代筆してもらうこともあった。そして次のように書かれたはがきは富山が生前、篠原に送った最後の便りとなった。

 〈いつも心づかいありがとうございます。面会、差入と感謝しております。弁護士さんについては、後日元に戻ったときに連絡等する予定です〉(2002年8月27日消印)

 このはがきの表面を見ると、文字が激しく波打っている。震える手で、まさに命を削りながら書いた文章だったのだろう。

 弁護団や支援者は容態の悪化した富山を助けようと東京拘置所長や法務大臣に対し、医療設備の整った拘置所外の病院に移送するよう要請したが、実現しなかった。そして富山は満足な医療を受けられないまま、2003年9月3日午前1時48分、拘置所で永眠。享年86歳。死因は「慢性腎不全」と発表された。


■まだ雪冤を諦めない支援者たち

 こうして雪冤を果たせぬまま、無念の死を遂げたシベリア帰りの死刑囚・富山常喜。だが、死後14年近く経った今も篠原ら支援者はまだ富山の雪冤を諦めていない。

「再審請求は本人が亡くなっても遺族が行えるので、なんとか遺族に請求人になってもらいたいと考え、動いています」

 遺族らの協力を得るのは簡単ではなく、苦戦しているようだが、篠原らは定期的に会合を開き、戦略を練っているという。3度目の再審請求が実現する可能性はまだ残されている。

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文=片岡健

ノンフィクションライター。全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書に『平成監獄面会記』(サクラBooks)、編著に『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(KATAOKA)など。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会記」』(カルトコミックス、作・塚原洋一)が8月8日に発売。
Twitter:@ken_kataoka

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