人間のように推論・学習・忘却できる“生物に近い”AI誕生へ! 脳と人工知能の差をなくす「量子物質」が超ヤバい

 人間の脳の特殊能力の一つが「忘却」だ。コンピュータに人間のような忘却システムを搭載するのは難しい。だが、人間の脳のように情報を忘れる仕組みを実現できる可能性のある新素材が発見されたという。サイエンスメディア「Science Alert」が報じた。

人間のように推論・学習・忘却できる生物に近いAI誕生へ! 脳と人工知能の差をなくす「量子物質」が超ヤバいの画像1画像は「Nature Communications」より引用


■忘れることの効用

 人間の脳は科学者も認める複雑で強力なコンピュータであるが、この複雑さに重要な役割を果たしているのが「忘却」であるという。我々も日々実感しているように、脳の記憶容量と処理能力には限りがある。情報を適切に忘れることができるから、我々の脳は効率的に働くことができ、次のために記憶容量を空けておくことができるのだ。これは今のコンピュータにはできないことである。

 また、忘却は「慣れ」という生物にとって重要な機能にも関わっている。慣れとは繰り返される刺激に適応し、脅威ではないものに対して反応を少なくする学習プロセスだ。ジェットコースターに何度も乗るとだんだん怖くなくなるように、生物は繰り返される刺激に徐々に無反応になっていく。慣れて怖くなくなるというのは、恐怖を忘れるということでもある。さらに、刺激から長い時間遠ざかれば、獲得した慣れや技術は徐々に消えて忘れてしまう。久しぶりに乗るジェットコースターは怖いものだ。これらは脳を持たない生物でも持っている、ごく基本的な記憶と学習のシステムである。

■忘れることができるコンピュータ

 現在のコンピュータに生物のような忘却や学習のシステムを模倣させるのは難しいという。だが、米国パデュー大学の研究チームは、ニッケル酸サマリウム(SmNiO3)という素材が忘却のメカニズムを模倣できる可能性を示した。

 ニッケル酸サマリウムはペロブスカイト型量子ドットと呼ばれる物質の一種(量子物質)で、プロトン(陽子)を加えたり取り除いたりすると結晶構造が変化する性質を持つという。刺激の繰り返しによって物質の挙動が変化し、やがて大きな反応は示さなくなる。これは学習の際に生物の脳内で起きる反応と似ている。この仕組みを応用すれば、いずれは忘却に似た仕組みを持ち、生物のように学習できる非生物を作れるという。

人間のように推論・学習・忘却できる生物に近いAI誕生へ! 脳と人工知能の差をなくす「量子物質」が超ヤバいの画像2プロトン移動の模式図。画像は「Argonne」より引用

 話題の論文は学際的ウェブジャーナル「Nature Communications」に掲載されている。この物質は今すぐコンピュータに組み込めるようなものではない。だが、今回の研究が進んでいけば、生物の脳内での学習プロセスをまねた新たな機械学習アルゴリズムを提供できる可能性がある。人間のように推論し、学習し、しかも忘れることのできる、より“生物に近い”人工知能の開発もそう遠い未来の話ではないのかもしれない。

参考:「Science Alert」「Argonne」「Nature Communications」、ほか

文=吉井いつき

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