「次はどいつだ!」新幹線殺傷事件は25年前にもあった! 返り血、叫び声…MJ風の覚せい剤中毒者がナイフを振り回し…
奈良市出身の中村は、地元の高校を卒業後、実業家の父の紹介で不動産会社に勤めた後、大阪でファッションモデルをした。180センチの身長で、当時の報道写真のキャプションには「マイケル・ジャクソンにも似た風貌」とある。ポケベルで呼んでもなかなか返答がないという気ままな性格で、モデル業は長くは続かなかった。
事件当時は、父親が経営する商事会社を手伝い、奈良市内の自宅の3階で暮らし、シルバーメタルのポルシェを乗り回していた。
職探しで東京に行くために新幹線に乗った、と本人は供述。所持していたバッグからは大麻約5.5グラム、覚醒剤約1.2グラムが見つかり、尿検査で覚醒剤反応が出た。公判で中村は、犯行時に頭の中で「敵を取ってくれ」という子どもの声が響いたと語った。
犠牲となってしまった松野定哲さんは、40歳で支店長という働き盛り。小学1年生の長男と、幼稚園に通う長女を持つ、一家の大黒柱であった。葬儀は社葬として執り行われ、社長を初め2000人以上が参列した。支店長である松野さんは経営側であり労働組合員ではないが、組合は弔慰金を出すという異例の対応をした。
大宮労働基準監督署は、業務の帰途に被った松野さんの被害を労災だと認めなかった。「松野さんの業務が犯罪を誘発する原因にはならない」として、業務と災害の因果関係を認めなかったのだ。これが平成6年7月のことである。
これに納得できなかった妻の恵子さんが、不服申し立てをした。平成7年8月、「松野さんらは事件当時、仕事の検討会を新幹線内で行っていたが、これは車内で行う必要があった」「松野さんに何の落ち度もなく、加害者を何ら刺激していない」として、埼玉労災補償保険審査官は労災として認める決定を下した。
平成7年7月27日、静岡地裁沼津支部で東原清彦裁判長は、中村克生に懲役15年の判決を言い渡した。覚醒剤中毒であった中村には2度に渡って精神鑑定が行われ、責任能力の有無を巡って、「心神耗弱の程度は軽い」とする検察側と、「心神喪失の状態にあった」と無罪を主張する弁護側が対立していた。
このような犯罪を防止する手立てはないのか、当時も議論になった。上下約290本が5~6分間隔で運行されている新幹線で、乗客の手荷物チェックは不可能だという、JR東海の見解が当時の報道で紹介されている。
(文=深笛義也)
■深笛義也(ふかぶえ・よしなり)
1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)がある。ほか、著書はコチラ。
※日本怪事件シリーズのまとめはコチラ
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