「私が殺した」加害者遺族をも死ぬまで苦しめる“死刑制度”の罪と罰! 死刑囚の兄が証言… 20年経っても消えない“傷”とは?

――第一線の記者やライター、ジャーナリストなどが取材・執筆する“不都合な真実をえぐり出す”ネットメディア「Real News On-line!(リア・ニュー!:RNO)」より転載。

 

兄弟を死刑で亡くした遺族の知られざる苦しみに迫る

 現在、アメリカで法律により死刑制度が定められているのは31州。そのほとんどの州では「薬物投与」による方法で死刑が行われているが、死刑囚が薬物投与以外の方法を選択した場合、いくつかの州では現在もその他の方法で死刑が行われることがある。アラバマ州、アラスカ州、フロリダ州、ケンタッキー州、サウスキャロライナ州、テネシー州、バージニア州では「電気椅子」、アリゾナ州とカリフォルニア州では「窒素ガス吸入」、ワシントン州では「絞首刑」、ユタ州では「銃殺」により死刑が執行されている。

 現地のニュースサイト「A&E」のインタビューに答えたランディー・ガードナー(54)は、弟のロニー・ガードナーを死刑により亡くしている。ロニー元死刑囚は1985年、23歳の時に死刑判決を受け、薬物投与ではなく銃殺を選び、2010年に刑を執行された。

「私が殺した」加害者遺族をも死ぬまで苦しめる死刑制度の罪と罰! 死刑囚の兄が証言… 20年経っても消えない傷とは?の画像1

 兄のランディーはロニー元死刑囚についてこう語る。

「ロニーは子供の頃から色々なトラブルを起こしては収容施設に入れられていた。家族がロニーに会えるのは、決まって彼が施設を脱走した時だけだった。なんだか、それが普通になっていたよ」

 ロニー元死刑囚は、1985年に刑務所を脱走後、ユタ州ソルトレイクシティーのバーテンダー、メルビン・オターストロムを強盗した末に殺害。さらに逮捕後、裁判所から脱走しようとした際に、弁護士のマイケル・バーデルを殺害し、裁判所職員に大けがを負わせた。

 ランディーは今も、自責の念に駆られている。

「弟を死刑にしたのは俺なのか、それとも弟が俺に罰を与えたのか分からなくなるんだ。今も悪夢の中にいる。夢を見るんだ。ロニーを刑務所から脱走させようとしている夢を。奴らは弟を殺したんだ」

 弟を死刑により失ったTRAUMA (トラウマ)は、いつまでも彼に付きまとう。

「兄として、なんでロニーを救ってやれなかったのか。俺もロニーも非行少年だったよ。ただ、俺はちょっとだけロニーよりも悪さの度合いがましだっただけだ。俺には学校があった。俺は学校に救われたが、ロニーを救ってやれなかった」

 バーテンダーのメルビンを殺害した数日後、兄のランディーはロニー元死刑囚に会い、殺害を打ち明けられた。その時、兄は弟にこう諭したという。

「ロニー、お前が殺したその人には小さな息子がいるんだぞ。誰がその子の面倒を見るんだ」

 その時、ロニー元死刑囚を警察に連れて行っていれば次の殺人は起きなかった、と彼は自分を責める。

「でも俺は警察に行かなかったんだ。死刑に処されるべきはこの俺なんだ」

 

弟の「殺人」の痕跡を発見、20年経っても消えない通報した兄の苦悩

 殺人を犯した家族を通報しなかったことを後悔するランディーだが、他にもう1人、今は亡き家族への対応の善し悪しに苦悩している男がいる。

 1980年、弟のマニュエル・バビット元死刑囚を警察に引き渡して死刑で失ったビル・バビッド(75)だ。彼もまた、今も自分の下した判断が正しかったのか、答えを出せずにいる1人である。

 弟のマニュエル元死刑囚は、ベトナム戦争の退役軍人だった。そんなマニュエルが犯した罪は、殺人。カリフォルニア州サクラメント在住だったリー・シェンデル(78)宅に盗みに入り、リーさんを撲殺した。

 犯行当時、ビルやその家族と同居していたマニュエル元死刑囚。しかし彼は退役後、妄想型統合失調症を発症しており、無職だったマニュエル元死刑囚がどこかからお金を得ているのかを、ビルは不思議に思っていたという。そんな矢先、ビルはイニシャルが彫られたジッポライターを発見する。そのイニシャルとは、ニュース映像で見た、殺人事件の被害者リー・シェンデルさんの「L.S.」だった。更なる被害者が出ること、自分の家族をも傷つけられるかもしれないという恐怖心により、ビルはすぐに警察に通報。マニュエル元死刑囚は逮捕され、2年後の1982年に死刑判決を受け、1999年に薬物投与により死刑が執行された。

「優しくて礼儀正しい、いい奴だった。戦争が弟を変えたんだ。(あいつは)病気だったんだ。家族全員が傷ついている。兄弟の1人とは縁を切り、母親には『なんでお前はマニュエルに会いに刑務所に行かないんだ。刑務所送りにしたのはお前じゃないか』と言われた」と嘆く。

 元死刑囚らに殺された被害者の遺族の悲しみは永遠だが、一方で加害者である死刑囚の遺族の苦しみもまた、死ぬまで続くのである。
(文◎美良美紀)


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