あの子はひとりぼっちだった ― 少年の“死に方”を決めた“異常な遊び”と謎の幽霊【最恐・実話怪談】

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あの子はひとりぼっちだった ― 少年の死に方を決めた異常な遊びと謎の幽霊【最恐・実話怪談】の画像3画像は「Thinkstock」より引用

 以来、里香さんは彼を見ることはなかった。二学期に入ってしばらくして、担任の先生から高橋くんが転校したことを知らされた。同じ市内の違う町に引っ越して、学区が変わったということだった。
 
「高橋くんが中学校にほとんど通わないで不良グループに入ったことは、男子の間ではよく知られていた。その頃には父親に引き取られて、彼は佐藤って苗字になっていたはずだ」

 義也くんは里香さんに、高橋くんの母親に会ったことはあるかと訊ねた。

「あるよ。私がひとりでプリントを届けにいったとき、高橋くんと一緒に玄関から出てきて、上がっていってって言われたんだけど……」

 初夏と呼ぶには早い、梅雨の晴れ間の午後。今日は塾があると義也くんが言うので、里香さんはひとりで高橋くんの家を訪ねた。

 すると、高橋くんの後ろから、清楚なワンピースを着た小柄な女性が出てきた。玄関の庇の下に立ち、里香さんを見ると顔をほころばせた。ちょっと不格好だけれど美味しそうなクッキーを盛りつけた皿を持っている。

「健ちゃんのお友だち? よかったら家に上がっていって。ほら、ちょうどクッキーを焼いたところなのよ。食べていってくださいな」

 痩せ形の綺麗な人で、高橋くんと面差しがよく似ていた。瓜二つと言ってよかった。優しそうなおばさんだと里香さんは思ったが、高橋くんが黙って睨みつけてくるので、「用があるので帰ります」と言った。

 すると、おばさんは「じゃあ、ここでお一つどうぞ」と里香さんにクッキーを勧めた。華奢な両手でクッキーの皿を捧げ持ち、どうぞどうぞと前に突き出してくる。甘い匂いに鼻孔をくすぐられ、「じゃあ1つだけ……」と里香さんは手を伸ばしかけたのだが、

「そんなもの食わない方がいいよ!」

 高橋くんにいきなりクッキーの皿を叩き落とされた。驚いて固まった里香さんの足もとに、クッキーと皿が粉々になりながら飛び散った。
 
 里香さんがこの話をすると、義也くんは怪訝な顔をした。

「畑山さん、高橋くんの義理のお母さんは、大柄で太り気味の、いつも派手な服装をした女性だよ? さっき言ったけど、僕は偶然、会ったことがあるんだ。豪快な感じのおばさんで、華奢で清楚なワンピースの人なんかじゃなかったよ。高橋くんに顔がそっくりだったというのも、おかしい」

「うん。だから私が会ったのは高橋くんの実のお母さんの方なんだよ」

「実の……?」

「そう。お母さんと一緒にあの家に住んでいるものだと思っていたのに、夏に行ったとき、冷蔵庫も無かったからビックリした。あんな家じゃ、クッキーなんて作れないじゃない?」

 このとき、会話の途中で義也くんが黙ってしまったので、里香さんは不安を覚えたのだという。「どうしたの?」と返事を急かすと、ようやっと彼は口を開いた。

 

「……その女性は幽霊だ。なぜって、高橋くんの実のお母さんは、彼があそこに引っ越してくる前に首吊り自殺したんだからね!」


 絶句した里香さんに、彼は続けて説明した。

「高橋というのは彼のお母さんの苗字だ。お父さんが愛人に走り、ご両親が離婚して、お母さんが彼を引き取ったんだ。そしてお母さんは、彼に農薬入りの菓子を食べさせて殺そうとした。

 幸い彼は助かった。この事件の後でお母さんは精神病院に入れられて、仮退院したときに、前に住んでいた家で首を吊って自殺したんだって。

 彼は母親が死んでも、すぐにはお父さんの戸籍に戻されなかった。だから僕たちの学校に転校してきたときはまだ高橋だったんだ。佐藤というのは父親の苗字だからね。あの家を借りたのはお父さんだったけど、お父さんは愛人の家に住んでいた。間もなく再婚するつもりで。

 これを僕は、高橋くんの家にひとりで届け物をしたときに聞いたんだ。

 その日、派手なおばさんと男の子が玄関から出てきて、ちょうど帰るところだと僕に言った。自分はこの家に住んでいる子どもの父親の後添いなんだけど、誰もあの子の世話をする者がいないから、ときどき通ってきて面倒をみてやっていると言って、そして、僕にこの話を聞かせたんだ。

 僕にはショッキングすぎたよ。ひとりで抱えきれなくて、家に帰ってすぐに母に話した。そしたら、よその家の事情だから誰にも言うなって言われたよ。

 僕は、高橋くんがぬいぐるみを刺していたあのとき、おばさんは嘘ついてたんだなって思って悲しかったんだ。面倒みてるって言ってたけど、あの家には何も無かったじゃないか。……酷いよね。僕たち、まだ10歳だったのに」

 インタビューの最後に、里香さんはこんなことを私に言った。

「私は高橋くんに本当によく似たおばさんからクッキーを勧められたし、そのクッキーとお皿が地面に落ちて砕けるのも、たしかにこの目で見たんですよ。

 あの女性は、本当に高橋くんのお母さんの幽霊だったんですか?

 そして高橋くんがクッキーを叩き落としたのは、農薬入りのお菓子を食べさせられたことがあったからなんでしょうか?」

 その女性を幽霊だったと決めつけるのは早計かもしれない。里香さんの話から状景を思い浮かべると、幽霊だったような気がしてしまうが、親戚の女性だった可能性も考えられる。

 確かなのは、10歳の子どもがひとりぼっちでカーテンも無い部屋に何ヶ月もほったらかされていたことと、彼の死に方と彼の「遊び」が奇妙に符合することだ。

 里香さんたちが見た彼のぬいぐるみや塩ビ製の人形は、どれも古びていたという。幼い頃、両親に買い与えられた玩具だったのではあるまいか。

 彼が殺したかったのは、そして彼を早すぎる死にいざなったのは、誰か。

 

文=川奈まり子

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■川奈まり子
東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。

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