――過去の個展についても教えていただけますか?
Que「最初の個展は、2015年の『16,777,216views』でした。2012年より制作を始めたこのシリーズは、液晶ディスプレイに蛍光塗料でペインティングして、UVライトを当てて光らせ、同時にディスプレイからは16777216色の閃光が1秒間60コマ、ランダムに放たれました」
――8年前から液晶ディスプレイはすでに明滅していたんですね。
Que「そのときから、液晶ディスプレイで使われているプログラムはずっと同じ。友人のプログラマーが作ってくれたもので、一般的な液晶ディスプレイで表示可能なすべての色がランダムに表示されるようになっています。つまり、RGBだから、赤256色、緑256色、青256色で、256色の3乗、つまり16777216色が代わる代わる表示されます。1秒間60コマという速度には人間の感覚はついてこれないので、ディスプレイはあたかも明滅しているように見えます」
――Queさんの作品をメディアアート的に捉える人もいると思います。でも一方で過剰な暴力性を持っているところも魅力です。今回の個展では、鉄パイプが液晶ディスプレイを貫通している作品が際立っていました。物理的に本物の鉄パイプが貫通し、十数秒に一度、最後の断末魔のような映像が一瞬映し出されていました。
Que「その画像は、実際に鉄パイプを貫通させたときに偶然にも映し出されたもの。この作品は、自分のスタイルをむしろ破壊することで、自分の作品を外側から見て、批判的に扱おうという態度のものです。先程、絵画であると言ったものでも、結局それが機械であるのだから破壊はあり得るし、そのときに自分の述べた絵画性は残るのだろうかという問いでもあります」
――Queさんが持つ暴力性は、昨年の『TOKYO 2021 un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング』でも発揮されていました。水没しているような生々しさで液晶ディスプレイの作品を展示するばかりでなく、同展示の他の作品では消火器の中身を詰め替えてスプレー代わりに広範囲に塗料をぶちまけています。消化器スプレーは、2018年、CANCERの展示では会場ビル一面に吹き付けられていました。
Que「10代からグラフィティをやっていたので、消火器を使うノウハウはありました。その手法は、アートサプライKrinkで知られるKRや、NYで巨大なタギングをしていたKATSU、またスプレーガンで巨大なインスタレーションを制作するドイツのカタリーナ・グロッセにも影響されています」
――Queさんの暴力性は、グラフィティをやっていたスピード感や身体能力から来ているように思います。そこからコンテンポラリーアートに転身したことも異例ですね。
Que「コンテンポラリーアートを活動の場に選んだのは、一番やりたいことを求めて、彷徨い続けた結果なんです。グラフィティをやっていたときには、アウトローの世界に身をおいて、社会の輪郭を少しだけ外側から見えた時に、自分がこれから何をするべきなのかを実感できたと思います。その後、液晶ディスプレイを用いるようになってからは、現代人の日常にあるものだからこそ、ハッキングして、その本質を暴き、人々にとって見慣れた視覚体験そのものを揺るがすような体験を引き出したいと思うようになりました。そんな手触りに一番こだわって作れるのが、コンテンポラリーだったんです」
――なるほど、パブリックアートとしてのグラフィティとの共通性は、社会的な視点でもあるんですね。。