治療法なきスーパーバグの脅威 ― 牛から人へ広がる“静かなるパンデミック”

治療法なきスーパーバグの脅威 ― 牛から人へ広がる“静かなるパンデミック”の画像1
イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 あなたの食卓に並ぶ牛肉や牛乳が、命を脅かす危険な「スーパーバグ」の感染源になっているかもしれない――。

 主に牛の間で広がる危険な細菌「サルモネラ・ダブリン」が、強力な抗生物質耐性を獲得し、人間へと感染を広げていることが最新の研究で明らかになった。このままでは、いずれ治療法がなくなる可能性があると、研究者たちは警鐘を鳴らしている。

牛から人へ、種を越える脅威

 ペンシルベニア州立大学の研究チームは、牛、人間、そして食品や農場といった環境から採取された2150株もの「サルモネラ・ダブリン」の遺伝子を詳細に分析した。その結果、これらの菌株が遺伝子的に驚くほど類似していることが判明。これは、この細菌が種を超えて容易に広がる能力を持っていることを意味する。

 サルモネラ・ダブリンは、牛にとっては重篤な病気や死を引き起こす恐ろしい細菌だ。しかし、その脅威は牛だけに留まらない。汚染された牛肉や牛乳、チーズの摂取、あるいは感染した牛との直接的な接触を通じて、人間にも感染する。

 人間に感染した場合、特に農場で働く人々や免疫力の低い人々において、深刻な血流感染症を引き起こすことがある。そして最悪の場合、死に至ることもあるのだ。

最強の耐性を獲得、もはや薬は効かない

 事態をさらに深刻にしているのは、この細菌が獲得した強力な抗生物質耐性だ。今回の研究で、牛から検出された菌株が、最も高いレベルの薬剤耐性を持っていることが明らかになった。特に、テトラサイクリンやセファロスポリンといった、感染症治療の「切り札」とされる薬物に対して、強い耐性を示していたという。

 これは、サルモネラ・ダブリンによる感染症が、ますます治療困難になっていることを意味する。治療が効かなければ、病気の期間が長引いたり、症状が重篤化したりするリスクが高まる。特に、高齢者や子供、免疫系が弱い人々にとっては、致命的な脅威となりかねない。

 研究者たちは、牛肉や乳製品の主要な生産国であるアメリカが、このスーパーバグによる広範な健康危機のリスクに特にさらされていると警告している。

治療法なきスーパーバグの脅威 ― 牛から人へ広がる“静かなるパンデミック”の画像2
Image by Alexa from Pixabay

入院率78%、致死率4.2%の恐怖

 米国疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、サルモネラ菌はアメリカで毎年約120万人の病気を引き起こしている。中でもサルモネラ・ダブリンによる感染は、血流感染症を引き起こす傾向があるため、特に重篤だ。

 2005年から2013年の間に、サルモネラ・ダブリン感染者のうち、実に78%が入院を必要とし、4.2%が死亡したという驚異的なデータも存在する。2019年には、カリフォルニア州で汚染された牛ひき肉が原因で13人が感染し、1人が死亡する大規模な集団感染も発生している。

 かつては治療可能だった感染症が、抗生物質の効かない「不治の病」へと変貌しつつある。CDCによれば、薬剤耐性菌による感染は、アメリカですでに年間280万人以上の病気と3万5000人以上の死を引き起こしているという。

治療法なきスーパーバグの脅威 ― 牛から人へ広がる“静かなるパンデミック”の画像3
イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

求められる「ワンヘルス」のアプローチ

 この静かなる脅威に対抗するため、研究者たちは「ワンヘルス」というアプローチの必要性を強調する。これは、人間の健康、動物の健康、そして環境の健康を一体のものとして捉え、連携して対策を講じるという考え方だ。家畜への抗生物質の使用を減らし、農場から食卓までの衛生管理を徹底するなど、社会全体での取り組みが急務となっている。

 私たちの食生活を支える畜産業の裏で着実に広がるスーパーバグの脅威。その蔓延を食い止められるかどうかは、我々一人ひとりの意識にかかっているのかもしれない。

参考:Daily Mail Online、ほか

関連キーワード:, ,
TOCANA編集部

TOCANA/トカナ|UFO、UMA、心霊、予言など好奇心を刺激するオカルトニュースメディア
Twitter: @DailyTocana
Instagram: tocanagram
Facebook: tocana.web
YouTube: TOCANAチャンネル

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

治療法なきスーパーバグの脅威 ― 牛から人へ広がる“静かなるパンデミック”のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

人気記事ランキング05:35更新