Que「2回目の個展は、2018年の『apple』です。アップル社のiPhoneを使って、直接そこに指でペインティングをしました。さらに、カメラとボイスオーバー機能をオンにして、観客を取り囲むように12個のiPhoneを配置して、カメラが観客を察知するとボイスオーパーがしゃべり始めるというものでした。人々の日常にあるスマートフォンを用いて、ユニークな展示ができました」
――観客がスマートフォンに“見られている”という状況になりますね。
Que「会場を包囲するような形で壁にかけていたので、『逆パノプティコンだ』と感想を仰られるお客様もいらっしゃれましたね。スマートフォンは常に見ているものを表示しているので、私達は”見られている”と同時に、常にスマートフォンという機械が”見ている”のを見ます。それは機械としての主体性を明らかにするものだと考えています。 スマートフォンはもはや現代の生活では手放せないものであり、それを扱うことはある種パブリックな空間を扱っている側面があると思います。もちろん、同時にプライベートなものでもあるのですが。そういったアンビバレントな姿に魅力を感じます。
また、液晶ディスプレイは“絵画”だ、と宣言しましたが、実際に液晶を用いた発光する絵画を作ろうとすると、過去の絵画とは制度的な切断が生まれてしまう。つまり、絵画とは光の反射で見るものなので、発光する絵画とは質的な変化が生じて、概念的な継承はできても、光学的なな切断が起こってしまうんです」
――その斬新さがQueさんの際立っているところだと思いますよ。
Que「こういった同居しながらも引き裂き合う、そんなジレンマは、僕のアイデンティティとも繋がっています。いま、僕はHouxo Queを名乗って活動していますが、日本国籍で日本名もあります。とはいえ、母方が中国、台湾、韓国の混血で、母方の家族は日本語を話しても日本の文化習慣には疎く、そんな中で育ったために常に宙吊りなんです。もし日本が重国籍を認める国家であったら他の国籍もあり得たわけで、常に可能性の中で彷徨っていました。自分が何者でもないのであれば、何者でもないところから始めるしかない。絵画のどれにもなれないところから新しい“絵画”を始めようという態度に通じる。パッシブじゃなく、アクティブに光を出すという手法は、『窮鼠猫を噛む』みたいなものなんです。グラフィティをやっていたときから、そういうところはずっとありましたから」
――ますますのご活躍を期待しております。ありがとうございました!
●Houxo Que (ホウコォ キュウ)
10 代でグラフィティと出会い、 ストリートで壁画中心の制作活動を始める。以後現在まで蛍光塗料を用いたペインティング作品とブラック・ライトを使用したインスタレーションで知られる。作品の制作過程をショーとして見せるライブペイントも数多く実施。 2012年頃よりディスプレイに直接ペイントをする制作を行いはじめ、2014年BCTION、2015年Gallery OUT of PLACEにて16,777,216viewシリーズを発表した後、様々な企画展示およびアートフェアなどで活躍、現代アートのシーンにおいて注目を集めている。Gallery OUT of PLACE所属。
・OUT of PLACE(公式サイト:www.outofplace.jp)
・公式サイト:www.quehouxo.com
・flickr
(文=ケロッピー前田)
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