■一転した世界を写真に写す
ーー 前作の『KIPUKA』は足掛け14年をかけてまとめた一方で、新作の『あたらしい川』『A NEW RIVER』の制作期間はおよそ半年ほどですよね。東京都写真美術館で予定していた『KIPUKA』のアップデート版のような内容からも大きく変わっていました。
岩根 この4月と5月の2カ月で、時間の概念みたいなものがめちゃくちゃ変わりましたよね。コロナ禍後の最初の展覧会に過去の作品を出している場合じゃないと思って、学芸員の方に「新作でやりたい」って、交渉しながら展覧会を作っていきました。
ーー 写真展では、透明で大きなフィルム状の素材にプリントした桜並木の写真が、会場を仕切るように天井からぶら下げられていたのが印象的でした。
岩根 北上の展勝地の桜並木をパノラマ写真にしたものですね。
ーー あれは夜桜ですか?
岩根 日中に撮った桜並木の写真の色を反転させて、透明のフィルムに大きく出力したんです。コロナ禍以降、コンビニとかスーパーとか、いろいろな所がビニールで仕切られて、何か越しに物事を見ることが多くなりましたよね。コロナ禍以前に撮った福島の写真と、今年の春に撮った桜の写真との間に、カーテンのようにこの写真を垂らしたのは、両者を分ける境界というか、コロナ禍以前と以降で世界が変わった瞬間を表したかったんです。
ーー なるほど。
岩根 『KIPUKA』からパノラマ写真を撮るようになって、『KIPUKA』の時は「サーカット」という360°撮れるパノラマカメラを使っていたんですけれど、サーカットってフレーミングがないんですよ。
ーー 「フレーミングがない」とは?
岩根 始まりと終わりだけがあって、始まりが終わりに戻ってくる感覚。このカメラを使うことで自分の写真を撮る感覚が変わっていった。フレーミング、切り取ることも写真の一要素だと思っていたのが、それが全くないサーカットで撮ったものもまた、写真なんですよね。盆唄が福島からハワイに渡ったのは100年以上前なんですけれど、現在・過去・未来という時間が並列に繋がっていると考えることが、サーカットの動きと1つになって、自分のそれまでの時間の概念を変えた。その世界観が『KIPUKA』にはあったんです。
ーー 『KIPUKA』についてインタビューさせてもらったさいに「自分に繋がっている過去についてどれだけ深く遡って考えるかが、同じ長さの未来を考えることに繋がる」と言っていましたね。
岩根 けれど、『あたらしい川』『A NEW RIVER』の撮影中、私はずっと移動ばかりしていて、車の車窓っていうか、前に前に行くっていう。それと、「もう前に進むしかないよね」っていように、自分の中で変わってきたんですね。「戻ってきて」とか言っていられない。