見惚れるほど美しい“内臓の共振写真”…写真家・石川竜一、5年ぶりの写真集『いのちのうちがわ』が刺さりまくる!(インタビュー)

■それでも体は生きようとしてしまう

ーー写真集の文章に書かれていた、「自然の働きのなかで死ななかったことへの少しの後悔と、自分がこの自然界に存在することの若干の後ろめたさが浮き上がってきた」という一文が気になりました。どういうことですか? 

石川:山を歩いてると危ないことはいくらでもあって、ちょっとミスったら死ぬよっていう状況はたくさんありますよね。でも、やっぱり人って、ギリギリの所でそれを回避するわけじゃないですか。自分から進んでは死ねないっていうか。あの時に死んでたらもっと楽だったかもしれないとか、普通に街とかで生きていても思うのに、そういう時に人って死ねない。生きようとしてしまうっていうことを、やっぱり、動物とかを殺して食べる時に思う。「なんで殺してまで生きるんだろうか?」とか、そういうことが強く意識されるっていう。

枝の重なり 北海道 2018年

ーー裏を返すと、自分なんて死んでしまえばいい、っていうことでしょうか?

石川:そういう気持ちもどこかにはあって。服部さんと話していて、山に入る人はそういう意識も強いのかなと感じます。危ない所に自分で挑んでいく、そこにはそういう気持ちがあると思う。そもそも、安全に生活したい人は山なんて行かないじゃないですか。山のなかに進んで入って行って、特に道具とかも持たずに、できるだけ自分の体で自然と対等に向き合うってとても危ないから、そこには、極端に言えば「死んでもいい」とか、もしそういうことがあっても構わないっていう、そういう気持ちが多分あると思うんです。

 僕の場合は、簡単に言えば、「死ねれば楽なのにな」とか、「足を滑らせて知らない間に逝ってたら、もう何もしなくていいのに」とか。

ーーそれは登山に限らず?

石川:登山に限らず。そういうこと思いません? 「楽になりたい」とか。

ーー思うことはありますよ。

石川:みんながみんなそうじゃないかもしれないけど、人ってやっぱり、どこかにそういう気持ちがあると思うんですよね。

ーー死んでしまうことで自分が自然の生死のサイクル、その流れの一部になってしまえば楽になれるのに、っていう意味かと思っていました。

石川:自然の一部であることは確かだとは思うんだけど、そこまで、背負ったことは考えられなくて、もっと個人的な欲求として楽になりたいっていう。個人ですら抱えるのって大変じゃないですか。自分っていう人間を抱えるだけでも人って大変だと思うから。

「なんでこんなに大変な思いをして生きてるんだろう?」とか、そんなことを思っている奴が、生きるために動物を殺して食べてるわけじゃないですか。「自然の働きのなかで死ななかったことへの少しの後悔と、自分がこの自然界に存在することの若干の後ろめたさ」っていうのはそういう気持ちです。

小鳥の内臓 北海道 2018年

ーー死にたいと思っていても、ギリギリの所では生きようとして、動物の命を奪って食べてしまう。

石川:そういう後ろめたさってみんな多少なりともないんですかね? 今の生活で。普通に畑を耕して、森のなかで動物を追いかけて生活してたら、人も動物も対等でいられるはず。ところが、無駄なビルを建てたり、家畜ばかり食べたり、そういうことを人間がやって、自分たちで管理するっていうなかで、自然に対しての後ろめたさっていうのは、僕は誰でもあるんじゃないかなって思うんですよ。

 でもね、山に入ってめっちゃ体を酷使して、エネルギー使って、そこから必要な栄養を体に取り入れた時って、自分の頭で考えきれるそういういろんなことをひっくり返すくらい、体が「生きてる!」って言うんですよ。

ーーどういうことですか?

石川:1日中、山を歩き続けると体がだるくなってきて、マジでエネルギーがキレそうっていう時に眠くなる。体が強制的に休もうとして、うとうとしたり。そういう状態の時に、前日に燻製した干し肉とかを食べたら一気に眠気が飛んで体がシャキッとする。頭もそうだし、手も足も「あ、動くようになった」って思うんです。本当に。

「あー、気持ちいい」とか「肉うまい」とか「塩最高! 塩分とったら元気出るよなー」とか。「甘いものは脳がバキッとするよなー」とか、体はそういうふうに反応する。頭で考えることとは別に、体が求めてるものがある。体は本当に生きようとしてる。

ーー生きたいっていうことに理屈はないんでしょうね。石川さんは、それを全身で感じてしまった。

石川:そうなんでしょうね。そういうことだと思います。

今月の写真

写真アーカイブ

  • 死ぬまでに行きたい「世界の廃墟」10選! 世界的廃墟写真家ボブ・ティッセンが捉えた闇の絶景!2023.02
  • 学歴なし・職歴なし・国民保険も税金も払ったことない偽名の男が写真家として才能爆発!「扇情カメラマン」酒井よし彦インタビュー2021.11
  • 密!密!! 密!!! 混沌と猥雑の圧倒的エネルギー! 人間が発する強烈な光と汗、命のスパーク…“男の裸祭り”の神髄を捉えた写真家・甲斐啓二郎インタビュー2021.07
  • 【展示中】カップルを真空パックし、建物もバキュームした写真家フォトグラファー・ハルの新作がヤバい! 「ドラム式洗濯機」に人間を凝縮させて“洗浄”!2021.05
  • 見惚れるほど美しい“内臓の共振写真”…写真家・石川竜一、5年ぶりの写真集『いのちのうちがわ』が刺さりまくる!(インタビュー)2021.03
  • SNSで排除されたアート写真が大集結『私たちは消された展』が超最高!!「死やエロを遠ざける理由はない」主催者の“扇情カメラマン”酒井よし彦が咆える!2021.02
  • 「世界一不気味なネコの絵」6点がヤバい! 猫を描く天才画家マーゴット・バードインタビュー2021.01
  • 現在、過去、未来、暗闇の桜並木…コロナで一転した世界を捉えた岩根愛写真集『A NEW RIVER』が美しすぎて泣ける!インタビュー2020.12
  • 日本初の「コロナ写真集」がヤバすぎる! 誰もが朧気にしか見えていなかった「コロナ禍の我々」を直視する写真集『東京、コロナ禍。』初沢亜利インタビュー2020.09
  • 日本の週刊誌を模した「激烈にヤバイ写真」を撮る英国人を発見! ジョシュア・ウィルクス、インタビュー!2020.07
  • 【写真多数】「世界のジプシー音楽」を求めて…写真家・石田昌隆、激動する世界と音楽を追った30年間の旅の記録インタビュー2020.06
  • オールヌード写真集『羊水にみる光』発売記念対談! 写真家・笠井爾示×モデル・兎丸愛美2020.03
  • 死ぬまでに絶対行きたい「世界のヤバイ廃墟」10選! 精神病院、ラブホ…世界的廃墟写真家ボブ・ティッセンが捉えた闇の絶景!2020.02
  • ホームレスとその「庵」を10年間撮り続けた写真家・野口健吾インタビュー! 西成、池袋、茨城…出会った野宿者は600人、厳しさ増す現状!2020.01
  • 政治家の“本当の素顔”を撮ってしまった写真家、林育良インタビュー!「神のお告げで写真家に…」これが現役の台湾総統首席カメラマンだ!2019.10
  • 現役台湾総統・蔡英文の専属カメラマン、林育良が本当にスゴすぎる! 日本では不可能な”国家元首のアート写真”で、政治の概念を解体する!2019.09
  • 超超最高のインド写真! 1億人が集結する世界最大の祭りクンブメーラの写真集『バガボンド』がヤバすぎて病むレベル!名越啓介インタビュー2019.08
  • 元家出少年が撮影した「ドープな大田区」がゴリゴリに切な過ぎる! 社会からこぼれ落ちそうな人間の儚さ…写真家・水島貴大『Long Hug Town』インタビュー2019.07
  • 木村伊兵衛写真賞受賞! ハワイ、福島、災害、そして再生… 絶望の時代にあって希望しかない写真集『KIPUKA』作者、岩根愛インタビュー2019.03
  • 銃口向けられ、ギャングに突撃され…! 最悪のスラム街を10年間撮り続けた「クレイジージャーニー」写真家・伊藤大輔インタビュー2019.02
  • ヨシダナギに影響を与えた写真家ジミー・ネルソンが超凄い! 「絶滅危機の少数民族」を30年間撮り続け…!2019.01
  • 世界最後の秘境で生きる「絶滅危機の少数民族」たちを30年間撮り続けた写真家 ―「瞬く間に彼らは去ってしまう」 ジミー・ネルソン2018.12
  • 「未知なる存在」を感知させる写真家・李岳凌インタビュー! 最高強度にエモ・ピュア・ディープな台湾を見よ!2018.09
  • 北朝鮮は5年間でこんなにも変わった ― 親日的な政府関係者、熱々カップル、 高層ビル群…  報じられない真実を見た写真家・初沢亜利インタビュー!2018.08
  • 即身仏、イタコ、修験道、婆バクハツ、東京の闇…神レベルの写真展「内藤正敏 異界出現」がマジやばい!2018.07
  • 【展示情報】澁澤龍彦没後30年! エロティシズム、魔術、両性具有…異端文化のカリスマの創作現場を公開『澁澤龍彦ドラコニアの地平』展が強すぎる!2017.12
  • 大北朝鮮帝国展「切断芸術」が首領様をぶった切る! 「1000年残るモニュメント」「芸術理論なんか糞食らえ!」(現代美術家・生須芳英)2017.11
  • ゾクゾクするほど“圧倒的剥き出し”の沖縄写真集 ー 木村伊兵衛賞作家・石川竜一インタビュー「知ってしまったら逃げられない」2017.10
  • 「らき☆すた神輿」でアニオタたちが流す汗が美しすぎて泣きそうになるレベル! 萌えの聖地・鷲宮神社で愛が爆発する瞬間を激写!2017.09
  • 死刑囚作品展「極限芸術」が放つ圧倒的エネルギー! この筆圧と存在感…死刑制度の是非を超えて“人間”を感じろ!2017.08
  • 世界大注目の「トリックメーク」が脳が歪むレベル!! 自分の身体をキャンバスにする韓国の美人アーティストが妖艶すぎる!2017.07
  • 【シリアルキラー展Ⅱ】人肉ハンバーガー、殺人ピエロ、マンソン…“猟奇殺人鬼”の芸術が鑑賞者に生々しく迫る!前回よりパワーアップ2017.05
  • 【R20】緊縛、絶叫、オネエ、切腹…! 「大人の見世物小屋」サディスティック・サーカスが日本にやって来る!2017.04
  • 恋人たちを“真空パック”する写真家・フォトグラファーハルがヤバすぎる! 息苦しいまでの愛の密着が、海外でも高い評価2017.03
  • 【写真】ベルリン、廃墟の神秘 ― 無人の核シェルター、化学工場…デビッド・リンチも欲しがった東ドイツの遺産2016.12
  • ISダーイッシュと戦うペシュメルガの兵士たちを独占取材! 日本の若き写真家がみた「想像もできない戦場」とは?2016.11
  • 未だ解明されない謎の“縄文人タトゥー”を現代に蘇らせるプロジェクトが美しすぎてカッコイイ!2016.09
  • ダリが認めたエイリアンの絵とは? ― “異形の巨匠”H・R・ギーガーのエロティックでグロテスクな世界2016.07
  • 特別ではない沖縄を撮った“特別な写真集”が揺さぶる沖縄観! 初沢亜利写真集 『沖縄のことを教えてください』2016.06
  • 「青」が気になりすぎた写真家が撮った“青のすべて” ― シュタイナー色彩論にヒントを得た熊谷聖司の写真集が美しすぎる!2016.04
  • 死ぬかもしれない写真集 『CAMP』 ― 写真家・石川竜一×サバイバル登山家・服部文祥対談2016.03
  • クソッタレな世界を疾走する若者たちの日々の欠片 ― 石川竜一写真集『adrenamix』の希望と絶望2016.02
  • 日本の民俗芸能は「美しいんだけど、怖い」 ― 集落に伝わる神々しい恐怖を捉えた写真家・西村裕介インタビュー2016.01
  • 死者と最も近い人々 ― とてつもなく奇妙なスラム街「フィリピンの墓場村」に潜入取材!2015.11
  • 絶対に見ておきたい人工衛星が捉えた地球の風景8! 美しくも奇妙な“奇景”が広がる!2015.10
  • 日常を“異化”する ― BankART「アートと都市を巡る横浜と台北」展で芸術創造の過程を追体験!!2015.08
  • 600万体の骸骨が眠るパリの地下 ― カタコンブ・ド・パリの「人骨の壁」2015.07
  • 6年間都内の非常階段から景色を撮り続けた男 ― “猥雑で美しい” 日本の街並み求めて ~佐藤信太郎インタビュー~2015.06
  • 「水曜日のカンパネラ」のdeepな音楽を聴け!!~新世代のサブカルヒロイン、コムアイにインタビュー~2015.05
  • 絶対に食べてみたい名作小説の食事50選!2015.03
  • 絶対に見ておきたい世界の廃墟5選! 不気味だけど美しいノスタルジックな光景が広がる2015.02
  • 身体改造、性倒錯…性的マイノリティを追ったドキュメンタリー『凍蝶圖鑑』! 鬼才・田中幸夫監督インタビュー 「変態を生き抜く覚悟を決めた彼らは、誰よりも美しい。」2015.01
  • 単なる男尊女卑ではない ― キルギスの誘拐結婚を追った写真家林典子に聞いた「アラ・カチュー」2014.11
  • 水族館の生き物は、本当に生きていると言えるか? 写真家、馬場智行が迫る「魚たちの暗闇」2014.09
  • 土屋太鳳「自然と紙を食べていた」 ― 人が人でなくなる瞬間を演じきった演技派女優『人狼ゲーム』インタビュー2014.08
  • アントワン・ダガタ ― ギャング・娼婦・ジャンキー・戦場…世界に自分を感染させる写真家インタビュー2014.06
  • 【軍艦島】外観維持に158億円!? 立ち入り禁止区域に、秘境写真家・酒井透が迫る!2014.05
  • 【軍艦島】“日本建築史の空白の10年間”に建てられた「65号棟」 立ち入り禁止区域に秘境写真家・酒井透が迫る!2014.04
  • 【軍艦島】立ち入り禁止区域に、秘境写真家・酒井透が迫る!2014.03
  • 日本版バンクシーが渋谷に?震災復興メッセージを含んだ街中の落書き 【タギングアート】2014.02
  • Eccentric Tagging in Tokyo 〜ストリートにインスタレーション空間を生み出すタギングの世界~2014.01