写真家・石川竜一さんが、最新作を発表した。タイトルは『いのちのうちがわ』だ。
サバイバル登山家・服部文祥氏とともに山に入り、食べるために殺めた動物の内臓を見て、触って、匂いを嗅いだ時に襲われた吐き気と興奮。そして、その美しさと奥深さにこの上なく惹かれたことが撮影のきっかけとなったという。
撮られた写真は、静かで、美しく、エロティック。それを起点に、石川さんの思考は微生物から宇宙までの広がりを見せる。3月20日から東京・渋谷のSAIで始まった写真展は、石川さんの個展としては、3本の指に入る規模で、その力の入れようもうかがい知れる。
この4月には5年ぶりの写真集の出版を控えた石川さんに、話を聞いた。
■捨てられた内臓に気持ちが動いた
ーー『いのちのうちがわ』を制作した経緯を教えてください。
石川:2015年に、金沢のギャラリーSLANTの日村征二さんから「一緒におもしろいことをしようよ」という提案をもらって、サバイバル登山家の服部文祥さんと山に入ることになったんです。「それまでやったことのないことにチャレンジしてみよう」っていう共通認識で。山にはもともと興味がなかったんですけど、興味がないのは自分がそのことを知らないから、それを嫌いと思ったりするんじゃないかと思っていて。
それで山に入ったら辛くて。そこから『CAMP』(2016年)(トカナの記事はこちら)っていうシリーズができたんですけれど、その時点では山が楽しいと思えていなかったから、もう少し続けてみようと思っていたんです。それで、服部さんに「狩猟にも来てみる?」って誘ってもらって、狩猟に行くことになったんです。
ただ、狩猟についての写真はこれまでも色々あると思うんだけど、そういうイメージは捨てて、そこに行って自分で何かを探したいと思っていて、服部さんと動きながら好きなもの、気になるものを撮ろうと思っていた。入る前からイメージを持たないで山に入ろうと思ったんですよ。
で、行っているうちに、獲物を獲る。獲物を獲ると、肉が悪くならないように、その場ですぐ内臓を出すんですけれど、だいたい、内臓はその場で捨てられるんですよ。食べることもできるけど、食べようと思ったら半日くらいかけて洗ったり、いろいろ処理しないといけないから、登山みたいに移動が目的の場合は食糧にしづらい。それを、自然の動物にあげるという意味でも、そのあたりに捨てていくんです。捨てて一晩も経てばなくなっているみたいな。
そういう中で、内臓がぽいって捨てられているのを見て、何か心に引っかかった。「気持ち悪い」とか「グロテスク」って思ったし、肉とは違って匂いも強いし、それでなんか「うわ!」って思った。でも、なんか、他の物を見た時と違うものがあって、そそられたんです。「触ってみたいけど触りたくない」とか「よく見てみたいけどあまり見たくない」とか、そういう気持ちが複雑に自分のなかにあるっていうのは思っていて。
それで、内臓を触ってみたり、動かしてよく見てみたりとかして、写真を撮ったんですよね。最初は狩猟の過程の1つだったんですよ。内臓にテーマを明確に絞ろうというふうに思ったわけではなく、ただ、自分のなかで気持ちが強く動いていたから、撮りたいなって思った。そこから、内臓そのものだけではなくて、死んだ鹿とか、動物とか、その周りのことを撮るようになっていきました。それが徐々に積み重なって『いのちのうちがわ』ができたんです。