■内臓と内臓が共振する、えもいわれぬ感覚
ーー撮影中はどんなことを考えていたのですか?
石川:撮っている時は何も考えてなくて、どちらかというと「たぶん気持ち悪がられるだろうな」とか「僕は何をやってるんだろう?」っていう気持ちが一番強かったですね。でも、どうしても、これは綺麗、美しい、っていうふうにも思っていました。
ーー写真集に寄せた文章で、内臓の手触りや匂いに「吐き気と共に興奮を感じた」と書いていましたね。
石川:あれは何なんですかね。内臓を持って触っていると、「おー!」って思いながら、そこに顔を突っ込みたくなる。臭いし気持ち悪いと思いながらも顔を突っ込んでぐちゃぐちゃにしたいっていう感じ。泥を身体中に塗りたくりたくなるみたいな感覚に近いかもしれないですね。
ーーどうして内臓に惹かれたのでしょう?
石川:具体的な理由はないんですよね。なんでこんなに内臓に興味があるんだろう? とか、なんで内臓ばっかり撮ったんだろう? とか、好きだから撮っていたんだけれど、それって何? って。でも、内臓を見た時に「ああ、自分のなかにこれがあるんだ」っていう感覚が確実に強くあって、それが、自分の内側から自然に出てくるっていうか、それが目の前にある物と反応してるっていう。
それは、例えではなくて、直接つながっている感じ。体の内側が気持ち悪くなったり、ドキドキしたりとか、吐き気がしたり。なんて言うか、内臓を見ることによって、自分の内臓そのものの反応がわかりやすく出てくるというか。
ーー普通、物を見て何かを感じたり考える時って、頭を通してというのが大半だと思うんですね。ところが、動物の内臓を見たて触った時に直接、石川さんの内臓が反応した。内臓と内臓が共振した感覚。
石川:そうそう。身体的に、嗅覚とか味覚とか触覚、そういうものを通して反応した。
ーーその反応を言葉にするのは難しいですか?
石川:だって、言葉にすると「これが内臓なんだよ」っていうことになってしまう。そこにはいろんな感情とか考えがあって、頭で言うとね、「湿った瑞々しいこの質感がエロい」とか「機能としてめっちゃ無駄がなく見える」とか。車のエンジンとかのさらにクォリティが高い版。人間が作ってきたいろんな物は、これを元にして作られているんじゃないかっていうくらい。それが、内臓に凝縮されている。そういう感じがあるんですよね。