見惚れるほど美しい“内臓の共振写真”…写真家・石川竜一、5年ぶりの写真集『いのちのうちがわ』が刺さりまくる!(インタビュー)

■殺して食べることで自然の何かになっていく

ーー『いのちのうちがわ』というテーマで作品を作るうえで、命について考えることもあったと思うんです。

石川:自分が自然の中の一部だってことはとっても大きいと、見れば見るほど、経験すればするほど、本心から感じます。本当になんか、自然の中の一部だなって。鹿を殺して、猪を殺して、食べて生きている自分も、どこかで死んで食べられていいんじゃないかとか、それが普通のことなんじゃないかとか。

ーーそういう考え方は『いのちのうちがわ』を作る間に生まれてきたんですか?

石川:そうですね。ただ、服部さんとの出会いが大きいです。作品そのものもそうだけど、自分の人生においてもめちゃくちゃ影響されたなというのはあります。もちろん、彼の活動に入ることで、自分なりのものを見つけたんだけれど、自然と向き合う時の基本的な考え方とかは服部さんの影響がめっちゃ大きい。

ーー動物を狩るのは服部さんが?

石川:僕は鉄砲も使えないし罠も使えないから、実際は服部さんが殺してるんですよ。でも、首を切ったり血抜きしたり、本当に息の根を止める時は、できるだけ僕がやるようにしていました。自分で素手で殺せる時は素手で殺すようにしたりして。やっぱり、それを自分でちゃんとしたいと思って。

 服部さんがやったということではなくて、自分も一緒にその場にいて、自分も殺す。その命を自分は貰っているっていうことを、ちゃんとしたかったんですよね。服部さんが銃で撃って殺した動物であっても、自分も一緒に殺して、それを服部さんと分けたんだと思っています。

蝮 山梨 2020年

ーー殺す時ってどういう感覚なんですか?

石川:怖い。僕は銃とか持っていないからやられる可能性もあるわけで、角が生えた鹿に飛び乗って殺そうとしたら、角で刺される可能性も十分ある。相手だって殺されそうなんだから本気で向かってくるわけですよ。山で1人で芝刈りをしている時にマムシを見つけたんだけど、その時にはすでにトグロを巻いていた。っていうことは、もう僕は見つかってる。だから、なんとしても逃げたいと思った。逃げたいけど、ここで逃げたら、自然のルールとしては、それまで殺して食べてきた物と向き合えないっていう気持ちがありました。

ーー殺すっていう所に参加しないと命の循環に入れないですもんね。

石川:殺す所だけを抜き取ってしまうとおかしな話になるんだけど、その過程ですよね。殺して食べて、自分もそのなかの何かになっていく。そのなかで自分が何になれるのか? っていうこともあるし。だから、基本的にズルいんですよ、やっぱり。普通に生活していて、山に入って、食べたいときに殺すとか。でも、それと向き合わないよりはいいかなって思います。

ーー『絶景のポリフォニー』、『okinawan portraits 2010-2012』から始まって、これまで主に、都市と人を中心に撮ってきたと思うのですが、石川さん自身は、『いのちのうちがわ』とこれまでの作品に通底するものは何だと考えていますか?

石川:たぶん、共通してるのは、生きてるってどういうことかな? ってことだと思います。人が生きてるってどういうことなのかな? っていうこととか、動物が生きてるってどういうことなんだ? とか、そういうことでは繋がってるはず。そのなかに社会があったり、人と人との関係があったり、個人の内側に入って、身体ということで言えば、内臓があると思うから、生きてるっていうことの繋がりは、やっぱりあると思うし。そういうふうに見てるんじゃないかなって思います。

 

■作家info

石川竜一(いしかわ・りゅういち)

1984年、沖縄県生まれ。2010年、写真家 勇崎哲史に師事。2011年、東松照明デジ タル写真ワークショップに参加。2012 年、「okinawan portraits」で第35回写真新世紀佳作受賞。2015年、第40回木村伊兵衛写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。 主な個展に2014 年「RYUICHI ISHIKAWA」galleryラファイエット(沖縄)、「zkop」アツコバルー(東京)、「okinawan portraits」Place M(東京)、「絶景のポリフォニー」銀座ニコンサロン(2015年大阪ニコン サロン)、2015年 「okinawan portraits」The Third Gallery Aya(大阪)、「A Grand Polyphony」 Galerie Nord(パリ)、2016年、「okinawan portraits 2012-2016」Art Gallery Artium(福岡)、「考えたときには、もう目の前にはない」横浜市民ギャラリーあざみ野、2017年「OUTREMER/ 群青」アツコバルー(東京)。 主なグループ展に2016年「六本木クロッシング 2016 展:僕の身体、あなたの声 」森美術館(東京)、「Body/Play/Politics」横浜美術館(神奈川)、2017年「日産アートアワード 2017:ファイナリスト5 名による新作展」BankART Studio NYK(神奈川)、2019年 「Oh !マツリ★ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー」兵庫県立美術館(兵庫)、「作家と現在 ARTIST TODAY」沖縄県立博物館・美術館(沖縄)。写真集に『okinawan portraits 2010-2012』『絶景のポリフォニー』『adrenamix』、 『okinawan portraits 2012-2016』(いずれも赤々舎)、『CAMP』(SLANT)。

■写真展info

石川竜一写真展「いのちのうちがわ」

会期:2021年3月20日〜4月18日
開場時間:11:00〜21:00 年中無休
会場:SAI
住所:東京都渋谷区神宮前6-20-10
ROYARD MIYASHITA PARK South 3F
URL:https://www.saiart.jp/

■写真集info

石川竜一写真集『いのちのうちがわ』

発売予定時期:2021年4月(※1)
定価:14,300円(税込)
著者:石川竜一 AD:町口景
発行元:赤々舎
URL:http://www.akaaka.com/

※1   オリジナルトートバッグ付き。「いのちのうちがわ」展会場、赤々舎HPにて先行予約開始(予約特別価格:13,000円 税込)。
※2021年3月下旬に展示会会場、赤々舎HPにて先行予約開始。
写真集予約ページはコチラ

文=渡邊浩行

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

今月の写真

写真アーカイブ

  • 死ぬまでに行きたい「世界の廃墟」10選! 世界的廃墟写真家ボブ・ティッセンが捉えた闇の絶景!2023.02
  • 学歴なし・職歴なし・国民保険も税金も払ったことない偽名の男が写真家として才能爆発!「扇情カメラマン」酒井よし彦インタビュー2021.11
  • 密!密!! 密!!! 混沌と猥雑の圧倒的エネルギー! 人間が発する強烈な光と汗、命のスパーク…“男の裸祭り”の神髄を捉えた写真家・甲斐啓二郎インタビュー2021.07
  • 【展示中】カップルを真空パックし、建物もバキュームした写真家フォトグラファー・ハルの新作がヤバい! 「ドラム式洗濯機」に人間を凝縮させて“洗浄”!2021.05
  • 見惚れるほど美しい“内臓の共振写真”…写真家・石川竜一、5年ぶりの写真集『いのちのうちがわ』が刺さりまくる!(インタビュー)2021.03
  • SNSで排除されたアート写真が大集結『私たちは消された展』が超最高!!「死やエロを遠ざける理由はない」主催者の“扇情カメラマン”酒井よし彦が咆える!2021.02
  • 「世界一不気味なネコの絵」6点がヤバい! 猫を描く天才画家マーゴット・バードインタビュー2021.01
  • 現在、過去、未来、暗闇の桜並木…コロナで一転した世界を捉えた岩根愛写真集『A NEW RIVER』が美しすぎて泣ける!インタビュー2020.12
  • 日本初の「コロナ写真集」がヤバすぎる! 誰もが朧気にしか見えていなかった「コロナ禍の我々」を直視する写真集『東京、コロナ禍。』初沢亜利インタビュー2020.09
  • 日本の週刊誌を模した「激烈にヤバイ写真」を撮る英国人を発見! ジョシュア・ウィルクス、インタビュー!2020.07
  • 【写真多数】「世界のジプシー音楽」を求めて…写真家・石田昌隆、激動する世界と音楽を追った30年間の旅の記録インタビュー2020.06
  • オールヌード写真集『羊水にみる光』発売記念対談! 写真家・笠井爾示×モデル・兎丸愛美2020.03
  • 死ぬまでに絶対行きたい「世界のヤバイ廃墟」10選! 精神病院、ラブホ…世界的廃墟写真家ボブ・ティッセンが捉えた闇の絶景!2020.02
  • ホームレスとその「庵」を10年間撮り続けた写真家・野口健吾インタビュー! 西成、池袋、茨城…出会った野宿者は600人、厳しさ増す現状!2020.01
  • 政治家の“本当の素顔”を撮ってしまった写真家、林育良インタビュー!「神のお告げで写真家に…」これが現役の台湾総統首席カメラマンだ!2019.10
  • 現役台湾総統・蔡英文の専属カメラマン、林育良が本当にスゴすぎる! 日本では不可能な”国家元首のアート写真”で、政治の概念を解体する!2019.09
  • 超超最高のインド写真! 1億人が集結する世界最大の祭りクンブメーラの写真集『バガボンド』がヤバすぎて病むレベル!名越啓介インタビュー2019.08
  • 元家出少年が撮影した「ドープな大田区」がゴリゴリに切な過ぎる! 社会からこぼれ落ちそうな人間の儚さ…写真家・水島貴大『Long Hug Town』インタビュー2019.07
  • 木村伊兵衛写真賞受賞! ハワイ、福島、災害、そして再生… 絶望の時代にあって希望しかない写真集『KIPUKA』作者、岩根愛インタビュー2019.03
  • 銃口向けられ、ギャングに突撃され…! 最悪のスラム街を10年間撮り続けた「クレイジージャーニー」写真家・伊藤大輔インタビュー2019.02
  • ヨシダナギに影響を与えた写真家ジミー・ネルソンが超凄い! 「絶滅危機の少数民族」を30年間撮り続け…!2019.01
  • 世界最後の秘境で生きる「絶滅危機の少数民族」たちを30年間撮り続けた写真家 ―「瞬く間に彼らは去ってしまう」 ジミー・ネルソン2018.12
  • 「未知なる存在」を感知させる写真家・李岳凌インタビュー! 最高強度にエモ・ピュア・ディープな台湾を見よ!2018.09
  • 北朝鮮は5年間でこんなにも変わった ― 親日的な政府関係者、熱々カップル、 高層ビル群…  報じられない真実を見た写真家・初沢亜利インタビュー!2018.08
  • 即身仏、イタコ、修験道、婆バクハツ、東京の闇…神レベルの写真展「内藤正敏 異界出現」がマジやばい!2018.07
  • 【展示情報】澁澤龍彦没後30年! エロティシズム、魔術、両性具有…異端文化のカリスマの創作現場を公開『澁澤龍彦ドラコニアの地平』展が強すぎる!2017.12
  • 大北朝鮮帝国展「切断芸術」が首領様をぶった切る! 「1000年残るモニュメント」「芸術理論なんか糞食らえ!」(現代美術家・生須芳英)2017.11
  • ゾクゾクするほど“圧倒的剥き出し”の沖縄写真集 ー 木村伊兵衛賞作家・石川竜一インタビュー「知ってしまったら逃げられない」2017.10
  • 「らき☆すた神輿」でアニオタたちが流す汗が美しすぎて泣きそうになるレベル! 萌えの聖地・鷲宮神社で愛が爆発する瞬間を激写!2017.09
  • 死刑囚作品展「極限芸術」が放つ圧倒的エネルギー! この筆圧と存在感…死刑制度の是非を超えて“人間”を感じろ!2017.08
  • 世界大注目の「トリックメーク」が脳が歪むレベル!! 自分の身体をキャンバスにする韓国の美人アーティストが妖艶すぎる!2017.07
  • 【シリアルキラー展Ⅱ】人肉ハンバーガー、殺人ピエロ、マンソン…“猟奇殺人鬼”の芸術が鑑賞者に生々しく迫る!前回よりパワーアップ2017.05
  • 【R20】緊縛、絶叫、オネエ、切腹…! 「大人の見世物小屋」サディスティック・サーカスが日本にやって来る!2017.04
  • 恋人たちを“真空パック”する写真家・フォトグラファーハルがヤバすぎる! 息苦しいまでの愛の密着が、海外でも高い評価2017.03
  • 【写真】ベルリン、廃墟の神秘 ― 無人の核シェルター、化学工場…デビッド・リンチも欲しがった東ドイツの遺産2016.12
  • ISダーイッシュと戦うペシュメルガの兵士たちを独占取材! 日本の若き写真家がみた「想像もできない戦場」とは?2016.11
  • 未だ解明されない謎の“縄文人タトゥー”を現代に蘇らせるプロジェクトが美しすぎてカッコイイ!2016.09
  • ダリが認めたエイリアンの絵とは? ― “異形の巨匠”H・R・ギーガーのエロティックでグロテスクな世界2016.07
  • 特別ではない沖縄を撮った“特別な写真集”が揺さぶる沖縄観! 初沢亜利写真集 『沖縄のことを教えてください』2016.06
  • 「青」が気になりすぎた写真家が撮った“青のすべて” ― シュタイナー色彩論にヒントを得た熊谷聖司の写真集が美しすぎる!2016.04
  • 死ぬかもしれない写真集 『CAMP』 ― 写真家・石川竜一×サバイバル登山家・服部文祥対談2016.03
  • クソッタレな世界を疾走する若者たちの日々の欠片 ― 石川竜一写真集『adrenamix』の希望と絶望2016.02
  • 日本の民俗芸能は「美しいんだけど、怖い」 ― 集落に伝わる神々しい恐怖を捉えた写真家・西村裕介インタビュー2016.01
  • 死者と最も近い人々 ― とてつもなく奇妙なスラム街「フィリピンの墓場村」に潜入取材!2015.11
  • 絶対に見ておきたい人工衛星が捉えた地球の風景8! 美しくも奇妙な“奇景”が広がる!2015.10
  • 日常を“異化”する ― BankART「アートと都市を巡る横浜と台北」展で芸術創造の過程を追体験!!2015.08
  • 600万体の骸骨が眠るパリの地下 ― カタコンブ・ド・パリの「人骨の壁」2015.07
  • 6年間都内の非常階段から景色を撮り続けた男 ― “猥雑で美しい” 日本の街並み求めて ~佐藤信太郎インタビュー~2015.06
  • 「水曜日のカンパネラ」のdeepな音楽を聴け!!~新世代のサブカルヒロイン、コムアイにインタビュー~2015.05
  • 絶対に食べてみたい名作小説の食事50選!2015.03
  • 絶対に見ておきたい世界の廃墟5選! 不気味だけど美しいノスタルジックな光景が広がる2015.02
  • 身体改造、性倒錯…性的マイノリティを追ったドキュメンタリー『凍蝶圖鑑』! 鬼才・田中幸夫監督インタビュー 「変態を生き抜く覚悟を決めた彼らは、誰よりも美しい。」2015.01
  • 単なる男尊女卑ではない ― キルギスの誘拐結婚を追った写真家林典子に聞いた「アラ・カチュー」2014.11
  • 水族館の生き物は、本当に生きていると言えるか? 写真家、馬場智行が迫る「魚たちの暗闇」2014.09
  • 土屋太鳳「自然と紙を食べていた」 ― 人が人でなくなる瞬間を演じきった演技派女優『人狼ゲーム』インタビュー2014.08
  • アントワン・ダガタ ― ギャング・娼婦・ジャンキー・戦場…世界に自分を感染させる写真家インタビュー2014.06
  • 【軍艦島】外観維持に158億円!? 立ち入り禁止区域に、秘境写真家・酒井透が迫る!2014.05
  • 【軍艦島】“日本建築史の空白の10年間”に建てられた「65号棟」 立ち入り禁止区域に秘境写真家・酒井透が迫る!2014.04
  • 【軍艦島】立ち入り禁止区域に、秘境写真家・酒井透が迫る!2014.03
  • 日本版バンクシーが渋谷に?震災復興メッセージを含んだ街中の落書き 【タギングアート】2014.02
  • Eccentric Tagging in Tokyo 〜ストリートにインスタレーション空間を生み出すタギングの世界~2014.01