動く物体しか見えなくなる「リドック症候群」の謎! 患者が生きる“とても奇妙な世界”とは?
※ こちらの記事は2018年6月17日の記事を再掲しています。
視覚のシステムは非常に不思議なもので、世の中には脳の病気やケガの後、「動くもの」しか見えなくなってしまった人々――リドック症候群が存在する。最近、そんな症状を抱える女性について、新たな発見があったと話題になっている。科学メディア「Science Alert」などが報じている。
■動くものしか見えない女性
英スコットランドに住む48歳の女性ミレーナ・キャニングさんは、18年前に重篤な呼吸器感染症と脳卒中を起こして昏睡状態となり、2カ月間生命維持装置につながれて生死の境をさまよった。奇跡的に生還するも、目を覚ましたミレーナさんは両目の視力をすっかり失っていた。
それから数カ月後のある日、ミレーナさんはお土産袋が緑色にキラキラと輝くのを見てびっくり仰天。医師は最初その話を信じず、以前見ていたものを妄想しているだけだと彼女に言った。
だが納得できなかったミレーナさんは、英グラスゴーのガードナベル総合病院の専門医ゴードン・ダットン氏のもとを訪れた。そして、ダットン氏はミレーナさんをある種の視覚障害と診断した。彼女は盲目であったが、窓を流れ落ちる雨水など、動くものだけは見ることができたのだ。ダットン氏は2003年に発表した論文にその様子を次のように記している。
「彼女は娘が歩き回っている時、そのポニーテールが左右に揺れているのを見ることはできるが、娘自身を見ることはできない。また、彼女は排水口へと流れていく水を見ることはできるが、湯船につかっている子どもを見ることはできない」
ダットン氏の勧めでロッキングチェアを使うようになったミレーナさんは、自分の頭を左右に振ることで、目の間に何があるかをある程度意識的に見ることができるようになったという。だが、彼女の症状には相変わらず謎が多かった。そこで、ミレーナさんはダットン氏の紹介でカナダ・ウェスタン大学の脳・精神研究所を訪れ、さらに詳しい検査を受けることとなった。
■謎多きリドック症候群
神経心理学者のジョディ・カルハム氏らによる脳fMRI検査などを受けた結果、ミレーナさんは「リドック症候群」と診断された。リドック症候群は静止した物体を知覚できないが、動く物体は認知できるという不思議な症状を示す。1917年に第一次世界大戦で頭部を負傷した元兵士で初めて報告されて以来、世界でも数例しか報告されていない珍しい病気だ。
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