自分が死んでいると誤認する「コタール症候群」とは? 脳がなくなったと主張する男

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画像は「Getty Images」より

 地元の病院の医師たちは何をすべきか分からず、グラハムを2人の世界的に有名な神経科医、エクセター大学 (イギリス) のアダム・ゼマン氏とリエージュ大学 (ベルギー) のスティーブン・ローリーズ氏に診てもらうことにした。

 2人による陽電子放出断層撮影法(PET)を使った診断で、グラハムの脳の前頭葉と頭頂葉の重要な部分における代謝活動が異常に低く、植物状態にある人と同等であることがわかった。「脳がなくなった」というグラハムの主張はある程度は真実であったのだ。

 ある意味では、グラハムの脳の一部は実際にほとんど死んでいたのであり、ローリーズ氏が知る限り、コミュニケーションが可能な人の脳としてこれはきわめてユニークなケースであるということだ。

 そしてゼマン氏は脳の代謝の低下が患者の世界に対する認識に病理学的変化を引き起こしたのだと確信したという。つまり脳活動の低下がコタール症候群を引き起こしているというのである。

 この後、グラハムは薬物療法と精神療法に基づく適切な治療法を処方され、それまでは兄弟や看護師に面倒を見てもらっていた家事もこなせるようになり、自立した生活が可能になったのだった。そして自分が死人であるとは思わなくなり、生きていることを幸せに感じるようになったのだ。

 コタール症候群を脳機能障害の症状としてとらえることで、治療への道が見えてきたということになるが、それでもまだまだ謎が多い症状ではある。グラハムのようなケースが今後も見つかることで、さらにこの謎の症候群についての理解が深まることを期待したい。

参考:「New Scientist」、「Anomalien.com」、ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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