「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本
――【連載】驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する想像を超えたコレクションを徹底紹介!
「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。
SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。
本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。
「ゲンシシャ自体が見世物小屋みたいな存在なので…」
藤井慎二(以下、藤井) 例年、うちの年末年始は大分に帰省されたお客様でごった返します。それが今年は年始を過ぎても「コロナ禍が落ちついたら旅行しよう」と考えていたお客様が多くいらして、さらに混雑しました。コロナ前と比較すると、若いお客様だけでなく、お年を召したお客様の割合も増えた印象です。
――ゲンシシャはサブカルキッズの憩いの場だと思っていたのですが、客層も広がったんですね。
藤井 70代ぐらいの女性のお客様も「Twitterを見た」と仰り、ご来店されました。
――2つの理由で驚きです。
藤井 コロナ禍もあって、老若男女問わずSNSをやるようになったのでしょう。いろんな世代のお客様がいらっしゃって、ありがたいことです。
――この記事が配信される頃は、春休みの学生も多い時期かと思いますが、今回のテーマは「見世物」です。「フリークショー」とも呼ばれることがありますが、サーカスの原型のようなイメージでしょうか?
藤井 フリークショーは『グレイテスト・ショーマン』という映画にもなった、サーカス興行師のP・T・バーナムの時代から連綿と続いているため、関連する写真集など読み物もたくさんあります。うちの見世物に関するコレクションは、「死体写真」と同じぐらい女性のお客様から人気が高い。まぁ、ゲンシシャ自体が見世物小屋みたいな存在なので……。
――言ってしまえば、そうですよね(笑)。
藤井 そこで、まずは『Freak Babylon』を紹介しましょう。日本語未翻訳で、英語の原著しかありませんが、フリークスの写真などが豊富に収録されています。フリークスの歴史だけではなく、トッド・ブラウニング監督の映画『フリークス』の写真などもまとまっていて、非常にお得感があります。
――Amazonでも3000円なので入手しやすそうですね。
藤井 少し円安で値上がりしていますね。僕がこの本をインターネット通販で入手したときは、2500円程度だった気がします。乳房が3つある女性の表紙で、手に取りやすいですよね。
――それは手に取りやすいんでしょうか?(笑)。以前もそうでしたが、ネットを徘徊して、こうした本に辿り着けるのは面白いですよね。
藤井 ほかには『In Search of the Monkey Girl』というアメリカやカナダの見世物小屋の写真集もオススメです。図版が大きく、テキストも写真に英語のキャプションが付いている程度なので、読みやすいと思います。
読み物としての価値が高い「世紀末倶楽部」…「オール見世物」は付録も充実
藤井 『FREAKS』は靖国神社の近くにある成山画廊のオーナー、成山明光氏が収集した海外のフリークスの写真コレクションです。頭の上に頭がもうひとつある人や、両腕がなく足でタバコ吸っていた女性の写真が収録されています。
――詳しく知らなかったのですが、私は以前、何の気なしに成山画廊に立ち寄ったことがあります。九段下らしからぬ、変わったイベントが開催されていた気がします。
藤井 かつて、成山画廊には少しグロテスクな作風で有名な日本画家・松井冬子氏が所属していました。成山明光氏は明治時代の医学写真もコレクションしており、『Dr. Ikkaku Ochi Collection』という本にもなっているのですが、彼女もこうした写真を見たとインタビューで語っていました。
――美女のはらわたが飛び出ていたりと、きれいな日本画なのに怪しげな雰囲気が漂っていますね。
藤井 絵画つながりでいうと、フリークショーの絵看板を紹介した『Freak Show: Sideshow Banner Art』という画集もあります。
――2つ顔がある男や、人食い人種が描かれていますね。
藤井 日本の見世物小屋だと『サーカス』(筑摩書房)もいい本です。編者の森田一朗が主宰する「森田写真事務所」は古い写真を蒐集、保存しており、遊郭で働く人たちの写真集も出しています。同書では明治から平成にかけての見世物小屋の写真を紹介しています。足が極端に短い人や火を吹く人の写真が収録されていますね。
――モノクロの曲芸師の写真はなんだかノスタルジーを感じさせます。
藤井 日本で出版されたものでおすすめの本には、1996〜2000年にかけて刊行されていた『世紀末倶楽部』(コアマガジン)という雑誌もあります。同誌の〈vol.4〉は「見世物王国」という特集で「20世紀最後の見世物小屋」と帯に書かれており、文章が非常に充実しているので、読み物としても面白いです。
――『世紀末倶楽部』は雑誌『BURST』(コアマガジン)の前身というか、「鬼畜系」というべきか……。
藤井 ここまで見世物について写真付きで詳細に書かれたものというのは、あまり見かけないですね。ちなみに『世紀末倶楽部』は全4巻ですが、CD-ROM付きの号も1巻出ています。ほかの号には「チャールズ・マンソンとシャロン・テート殺人事件」の死体写真が載っていたり、四肢欠損愛好者のための写真が載せられ、釣崎清隆氏が写真と文を担当した「ドンキー・ファッカー」という獣姦の記事が書かれ、アラブの不倫女性の斬首刑の写真が掲載されています。
――まるで、30年前のTOCANA……。
藤井 当該号では『オール見世物』(珍奇世界社)というヴィジュアルブックが、「個人出版のため一般書店では入手困難。お求めになりたい方はTEL&FAX○○○珍奇世界社まで。残部少。急げ!」と紹介されていますが、うちにはその本があります。
――わぁ……。
藤井 『オール見世物』は日本の見世物小屋の看板や写真を集めた大型本です。ペーパークラフトの付録も付いていて、「君の部屋に見世物小屋を飾ろう!」と書いてありますね。「豆電球で灯りをつければ、さあ完成だ」、と。切り取って使うかたちで、見世物小屋の絵看板をポストカードにしています。
――誰に送ればいいのでしょう……。やっぱり、90年代はみんなどうかしていたのでしょうね。
藤井 はははっ、確かに。それでは、最近のものも紹介しておきましょう。2016年に大阪の国立民族学博物館で開催された「見世物大博覧会」のカタログが、近年刊行された日本の見世物関連本では一番充実していると思います。すぐに売り切れてしまい、プレミアが付いたため、なかなか入手困難な一冊です。「人間ポンプ」さんについても詳しく書かれています。
――映画『トランスフォーマー』のように、ガソリンを飲んで火を吹く胃袋芸ですね。
藤井 人間ポンプさんは写真家・森浩二の写真集『最後の天幕』(矢立出版)にも、昔の花園神社の見世物小屋の様子や、大寅興行社の看板などと一緒に紹介されています。
学問的にフリークスを扱った本も
藤井 雑誌『夜想』(ペヨトル工房)でも、フリークスの特集が2回ほど組まれています。写真や評論がたくさん載っていて、値段もお手頃なのでフリークス入門にいいですね。読み物としてはレスリー・フィードラーの『フリークス―秘められた自己の神話とイメージ』(青土社)も基本の一冊です。古本屋でしか手に入らないと思いますが、それほど値段も高くないと思います。
――気になる目次ですね。「神学から奇形学へ」とか……。
藤井 『陳列棚のフリークス』(青土社)はこの連載の第5回目でも紹介したような、奇妙な医学についてや、不思議な話をいろいろ紹介した本です。デヴィット・リンチの映画で有名な“エレファントマン”や、自然発火する人体、兎を生んだ女、尻尾を持つ子どもたちなどについて書かれています。
――やはり、さまざまな分野で研究対象になってきたのですね。
藤井 『魅せられてフリークス』(秀英書房)は、平岡正明や四方田犬彦など著名人がそれぞれの方面からフリークスを論じた本です。映画評論もあれば、差別意識、宗教などについても触れています。
――フリークスというのは映画やマンガ、宗教的な方面にも結びつきやすいんですね。それにしても、同書は文化人類学学者・山口昌男、ガロ系マンガ家・渡辺和博など、かなりシブいメンツですね。
藤井 読み応えのあるマジメな本ですよ。最後にコアなフリークスファンにおすすめなのが、「Human Freaks And Oddities」というアメリカで発売されたカードです。1枚ずつフリークスの写真が載っていて、裏に解説が書いてあります。「水中でも食事をとったりタバコを吸う人」「アルビノ」「結合双生児」「両性具有」などのカードがありますが、別にこれで遊べるわけではなく、コレクションする目的で販売されていました。当時の値札で15ドルだったようです。
――これ、今の倫理観では絶対に商品化無理なやつですね(苦笑)。
藤井 当店には、見世物小屋に関するコレクションが、今回紹介できなかった本以外にもたくさんあるので、いずれ第2弾、第3弾もできたらなと思います。
書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本のページです。サーカス、フリークス、見世物、大分県、BURST、書肆ゲンシシャ、人間ポンプなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで