身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田『モディファイド・フューチャー』刊行記念インタビュー(前編)

 身体改造ジャーナリストのケロッピー前田氏による新刊『モディファイド・フューチャー』(フューチャー・ワークス)が9月1日に発売された。本書は日本の身体改造カルチャーを総括する内容になっており、日英バイリンガル版で出版されていることからも、海外に向けて制作された意図があることは明白なのだが、なぜ今、日本の身体改造を世界に発信しようと思ったのか? 日本のカウンターカルチャーを牽引してきた第一人者が見てきた30年間の変遷とは――。

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(撮影:編集部)

 今回、TOCANA編集部では『モディファイド・フューチャー』の著者であるケロッピー前田氏にインタビューを行った。9月7日〜9月10日にかけて、ドイツ・ベルリンで開催された身体改造の国際会議「BMX」の模様から、昨今話題の「ニューラリンク」に至るまで、盛りだくさんの内容でお届けする!

世界中から参加希望者が殺到! 身体改造の国際会議「BMX」

――ケロッピー前田さんといえば、海外の身体改造カルチャーを日本に紹介する一方で、縄文時代のタトゥー復興プロジェクト「縄文族 JOMON TRIBE」を国内外で展開するなど、日本の文化を海外に発信する活動もされてきました。このたびバイリンガル版を上梓されたということで、その背景にはやはり、これまでの双方向的な関わり方が関係しているのでしょうか。

ケロッピー前田:そうですね。90年代半ばから、カウンターカルチャーにおける最も過激なジャンルとして、身体改造の最前線を取材してきました。ジャーナリストの活動と並行して、2005年に写真家デビューをしていて、海外のアートギャラリーでも写真作品を展示するようになったので、国外に向けて情報を発信するようになったのはその頃からですね。

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SCAR FACTORY』(CREATION BOOKS)

 2007年には、海外の身体改造アーティストが次々と来日したゼロ年代の前半期を僕が写真でドキュメントしたものをまとめた『SCAR FACTORY』(CREATION BOOKS)という本もイギリスで出版しています。

 身体改造カルチャーを追いかけてきてそろそろ30年って感じなんですけど、日本の身体改造は海外とは異なる変遷を辿っているんですよ。先月、身体改造の国際会議「BMX」で日本代表スピーカーとして、日本の身体改造30年史をテーマにレクチャーしてきたので、この会議に合わせてバイリンガル版の本を刊行することになりました。

――「BMX」にはどのような方々が参加されるのでしょうか。

ケロッピー前田:一般に向けて行われているわけではないので、ピアッサーや彫師さんとか、身体改造アーティストなどの業界関係者がメインです。近年、大学機関でもタトゥーの研究が盛んに行われているので、大学教授やお医者さんも多かった。専門の業種に就いていて、身体改造に何らかの興味関心を持っている人だけが参加できる会議なんだけど、今年は希望者が殺到したみたいで人数制限を設けたと聞きました。

――全体的な参加人数はどれぐらいですか?

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「BMX」では顔面サスペンションにも挑戦!(撮影:ケロッピー前田)

ケロッピー前田: 関係者含めて600人ぐらいかな。前回と比べて100人増えていて、ベテラン勢と次世代を担う若者の交流の場としても機能しているので、増えた分はすべて若い年代の人たちですね。

 今回が17回目の開催で歴史のある会議なんですけど、ここ数年でマイクロチップを身体に埋め込む技術まで登場しているので、タトゥーやピアスの延長線上にある過激な身体改造に収まらない新しい身体改造が登場する状況になっています。

 タトゥーなら「タトゥーコンベンション」が各地で行われているし、ピアスは業界団体が主催する「国際ピアス会議」があるので、それに比べると「BMX」は身体改造から派生したすべてのカルチャーを横断しているという点において、ちょっと変わった位置づけにあるんです。それに研究者も多く参加しているので学術的な側面も強い。

 この本は、日本の身体改造カルチャーについて海外向けに発信することを目的として作ったので、これから深く知りたいという人にとってもわかりやすい内容になっていると思います。掲載している写真もすべて僕が撮影したものなので、作品集的な意味合いもありますし、今回は特に本格的な感じですね。

欧米人と日本人ではボディサスペンションの解釈が異なる理由

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フックを刺して身体を吊り下げる「ボディサスペンション」(撮影:ケロッピー前田)

――本書のなかで、ボディサスペンションについて「初めてのサスペンションをいきなりみんなに見せたいというのが日本の改造人間たちのプライドだ」と解説されていますよね。私もサスペンションに対して参加型のイメージを持っているのですが、海外ではどういった形で行われることが多いのでしょうか。

ケロッピー前田:アメリカとかヨーロッパにはクラブパーティーの文化があるので、プロのパフォーマーがステージショーとしてサスペンションを行うのが一般的です。素人はサスペンションを受けてみたい!と思い立っても「人前で素を出してまったらどうしよう……」って気後れするらしく、プライベートで受けるのが自然な流れになっていますね。

――プライベートサスペンションはスタジオのような場所で行われるんですか?

ケロッピー前田:うん。実は20年ぐらい前に、ルーカス・スピラという海外のアーティストが来日するタイミングで、本格的なサスペンションパーティーを準備したことがあって。最初は僕もそういうものだと思っていたし、写真を撮りたかったっていうのもあって、撮影スタジオをセッティングしていたんだけど……。

 全員初めてのサスペンションなのに、ほとんどの参加者が「会場に友だちを連れてきてもいいか?」って言うんですよ。大勢の友人たちに応援してもらわないと頑張れないって。それじゃ撮影スタジオでは狭すぎるということで、急遽イベント会場を借りることになりました(笑)。

 今でもそれは変わらず、多くの観客に見守られるなかで吊り下げられるというのが日本スタイルになっています。これってすごく日本人っぽい感覚ですよね。

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現代ボディサスペンションの生みの親・ステラークが考案したパフォーマンス(撮影:ケロッピ前田)

――欧米人と日本人では受け入れ方が対照的って面白い話ですね!

ケロッピー前田:サスペンションはもともと「モダン・プリミティブズ(現代の原始人)」を提唱するファキール・ムサファーという人物によって、アメリカ先住民の「サンダンスの儀式」が再興されたものなので、向こうの人には「野外で吊られたい」とか「リラックスした雰囲気のなかでやりたい」っていう欲求もあるんですよ。

 西洋人たちは身体改造を通して、西欧文明のなかで一時は失われてしまった痛みを伴う民族儀式を現代的に取り戻そうとしている部分があるので、90年代以降の身体改造の世界的なムーブメントっていうのは、非西欧文化にあった身体改造を蘇らせようとしているとも言えるんです。

縄文時代のタトゥーを身体に刻むプロジェクト「縄文族」とは

――過去にTOCANAの記事でも「縄文族  JOMON TRIBE」について「最も人間的な行為」と言及されていましたよね。

ケロッピー前田:そうですね。縄文族はタトゥーアーティストの大島托と共同して手がけているアートプロジェクトで、縄文時代の土偶や土器に見られる文様を抽出して、現代的なタトゥーデザインとして身体に刻むことによって、人類の原始的な精神が現代社会を生き抜くためのアイデンティティになり得る可能性を示唆しているんですけど、この活動を通して、日本人にもわかりやすい形でモダン・プリミティブズを提示することができたかなと思っています。

 皮膚は残らないから立証することが難しいんだけど、縄文時代の土偶や土器にあれだけ見事な文様が残されているのであれば、縄文人が身体にタトゥーを施していたと考えるほうが自然なんですよ。自分の所有物だから自分のタトゥーと同じ文様を土器に施していたのかもしれないとか。大きな耳飾りも多数出土しているし、抜歯や人為的に頭蓋骨に穴を開けた「トレパネーション」の痕跡が見られるものまで見つかっています。

 今回の本でも巻末のカラーページに新作を掲載しているけど、「縄文族 JOMON TRIBE」は海外でも評判が良くて、フランクフルトで写真展を開催した際には現地の新聞社が取材に来て、見開きで大きく取り上げられました。

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(撮影:ケロッピー前田、縄文タトゥー作品:大島托)

――身体改造ってどうしても加工を加えることになるので、方向性としては人間性の拡張を目指すイメージがありますけど、モダン・プリミティブズの考え方に則ると元の人間本来のあり方に戻るという解釈ができるわけですね。

ケロッピー前田:前提として「人間は本来、体を改造したい欲求を持っている」っていう考え方なんですよ。僕が翻訳して自費出版した『モドゥコン・ブック 増補完全版』(フューチャー・ワークス)の前書きにも書いてあるけど、 「人間と動物の違いは何か?」という疑問に対して、原書の著者であるシャノン・ララットは「身体を改造することが人間と動物の違いだ」と明言しています。

 僕らが縄文タトゥーをやり始めたとき、縄文時代のタトゥー研究は久しく真剣に取り扱われることがなかったけど、最近になって少し話題にしてもらえることが増えてきて手応えを感じているところです。日本の土壌で身体改造を考えてもらうときに「縄文」というキーワードはぴったりだったと思うんですよ。「BMX」でもこの縄文ネタは非常に反響がありました。

「身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田『モディファイド・フューチャー』刊行記念インタビュー(後編)」はこちら

ケロッピー前田『モディファイド・フューチャー』

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発行:フューチャー・ワークス
日本の身体改造30年史 古代・現在・未来
TBS『クレイジージャーニー 』で特集されたマイクロチップとイーロン・マスクのニューラリンク最新レポート
日英バイリンガル版
128ページ(カラー64ページ)
定価:2800円(税別)

※一般書店やアマゾンでは販売しません
※イベント販売
10/7&11/4 デパートメントH@東京キネマ倶楽部
10/26 BURST公開会議@阿佐ヶ谷TABASA
11/11 文学フリマ@東京流通センター 第一展示場・第二展示場
※通販取扱店
銀座ヴァニラ画廊/中野タコシェ/阿佐ヶ谷ギャラリー白線/名古屋ビブリオマニア

■ケロッピー前田
身体改造ジャーナリスト。90年代半ばから伝説の雑誌『BURST』などで世界のカウンターカルチャーを現場レポート、身体改造カルチャーの最前線を日本に紹介してきた。その活動はTBS系人気番組『クレイジージャーニー』でも取り上げられ話題となる。05年以降、写真家、アーティスト、キュレーターとして国内外で作品展示を行う。主な著書に『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)、『縄文時代にタトゥーはあったのか』(国書刊行会)、『モドゥコン・ブック 増補完全版』(フューチャー・ワークス)など。
X(旧Twitter):@keroppymaeda
Instagram:@keroppymaeda
YouTube:ケロッピー前田のクレイジーチャンネル

文=浅香麻亜弥(トカナ編集部)

1993年生まれ、東洋大学インド哲学科卒。不思議なこととお酒と猫が好き。アンダーグラウンド・カルチャーにまみれながら、日々修行中。 TOCANA|UFO、心霊、予言など未知の世界の情報を発信、好奇心と知的欲求を刺激するメディア
Twitter: @DailyTocana
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