小指を噛み切り性器を切断…「死よりも酷い」最悪の刑務所で生き残った男
刑務所は“受刑”の場所なのか、“更生”を促す場所であるのか――。アメリカで最も厳格な刑務所の独房の中で小指、耳たぶ、性器を切り落とす自傷行為を経て“更生”した銀行強盗犯が昨年釈放された。
■独房で精神を病み自ら陰茎を切り落とした男
アメリカで最も厳重に運営されている刑務所の総称「スーパーマックス」の1つ、ADXフローレンス刑務所に収監され昨年釈放されたジャック・パワーズ氏は、服役中に両手の小指、耳たぶ、そして男性器を失った姿で“娑婆”に戻ってきた。彼にいったい何があったのか。
現在のパワーズ氏はかつて自分が“悪人”だったことを認めており、未熟な性格が原因で犯罪に手を染めてしまったと語っている。ニューヨーク出身のパワーズ氏は、自分の価値観、視点、見通しが無知であったため、1989年に銀行強盗をしでかすなど、人生の流れを変えるような賢明ではない決断を下してしまったという。
逮捕時に彼は非武装だと主張したが、盗難車を使っていたことや、自宅に違法な銃器を所持していたことでも罰せられた。
判決を言い渡された後、彼は「ロッキー山脈のアルカトラズ」として知られるアメリカで最も厳格に運営されている悪名高いADXフローレンス刑務所に収監された。
1995年に開設されたこの刑務所は、最も凶暴な受刑者、多くの場合殺人者やテロリストを隔離し、本人と関係者の安全を守るための施設であった。
受刑者を徹底的に孤独にするこの刑務所の運営方法は長年にわたって批判されており、アムネスティ・インターナショナルのアメリカ担当局長、エリカ・ゲバラ=ロサス氏は「このような過酷な扱いはアメリカで日常的に行われており、国際法に違反している」と2014年に言及している。
十数の巨大な監視塔が囲むADXフローレンス刑務所は最大490人の受刑者がコンクリート独房に収容され、そこで1日24時間過ごすことも普通である。刑務所の監視機関の報告書によると囚人同士の接触を避けるため、独房には専用のシャワーも設置されている。
収監中のパワーズ氏は精神を病み、小指を噛みちぎったり、耳たぶを切断したり、睾丸や陰茎を切り落としたりするなど衝撃的な自傷行為を行った。また飲み込んだ歯ブラシを取り出すために開腹手術を余儀なくされた。
こうした自傷行為の後、パワーズ氏は適切な治療を受けるためにアリゾナ州の連邦刑務所に移送されたのだった。
■移送先の刑務所で執筆した“獄中日記”
ADXフローレンス刑務所はかつて元看守が「死よりもひどい」、「人類のために作られたものではない」と酷評していた施設である。
ジャック・パワーズ氏がここで味わった身体的および精神的苦しみが癒えるにはまだかなりの時間がかかりそうだが、アリゾナ州の連邦刑務所に移送されてからは独学で執筆への情熱を育んでいったのだった。そして2021年5月に自著『ADX Supermax: The Alcatraz of the Rockies』(ADXスーパーマックス:ロッキー山脈のアルカトラズ)を出版した。
33年間の刑期を終えて昨年仮釈放されたパワーズ氏だが、その“出所”の瞬間はドキュメンタリー映画製作者のピート・クワント氏が撮影し、「ニューヨーク・タイムズ」で報じられた。クワント氏はその時の様子を次のように話している。
「彼が自由になってから最初の数時間、彼を取り囲む感情と刺激の洪水にもかかわらず、私たちのカメラのレンズに自分自身をさらけ出す姿に立ち会えたことは光栄でした。長期の刑務所滞在を経て社会に復帰することは、夢中になれる夢であると同時に、乗り越えられない挑戦のように思えるかもしれません」(クワント氏)
服役中に息子の死を知らされたパワーズ氏は「刑務所では本当に悲しむことはできません。刑務所の時間はただ止まっているだけで、動きません」と語る。
「ここでは時間が過ぎていくようです。長い長い時間がかかりましたが、逃した時間と失った時間を質の高いもので取り戻すつもりですし、私はやるべきことは何でも、あなたが私に望んでいることは何でもするつもりです」(パワーズ氏)
出所後、パワーズ氏は年老いた母親と再会し、涙ながらに「元気そうでなによりです。夢が叶いました。これが続くかどうか分かりませんが」と口にした。
パワーズ氏の話に感動した人々からの寄付でクラウドファンディング「GoFundMe」ページにはすでに約40万円以上が集まっているという。
彼はまた自身のYouTubeチャンネル「TimeTracker」を運営しており、そこでは社会の問題や現代のトピックについて議論している。
銀行強盗犯であり受刑者であり“スーパーマックス”のサバイバーであるパワーズ氏は今後どのように“失われた時間”を取り戻していくのだろうか。
参考:「Daily Star」ほか
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