【未解決事件】「板橋資産家夫婦放火殺人事件」の謎…放置された大金が物語る“奇妙なねじれ”と“遺体に抵抗の痕跡なし”が示唆する犯行経緯

【未解決】放置された大金が物語る奇妙なねじれとは?「板橋資産家夫婦放火殺人事件」の謎の画像1
事件現場。画像は「YouTube(TOKYOMX)」より

 2009年5月25日0時頃、東京都板橋区の住宅街にある邸宅で火災が発生。火災そのものは駆けつけた消防隊によってほどなく鎮火したが、焼け跡からはこの家に住む不動産賃貸業の男性・Aさん(当時74)と、その妻・Bさん(当時69)が遺体となって発見された。

 しかし、彼らは火災によって命を落としたのではなく、鈍器で複数回殴られた痕跡が確認できたことから、警察は2人が殺害された上で自宅に火をつけられた強盗殺人事件であると推定し、すぐさま捜査に着手。しかし結論から言ってしまえば、発生から15年もの歳月が流れた今も解決には至っていない。

 さて、この『板橋資産家夫婦放火殺人事件』で殺害されたAさん夫妻は、事件名が示すように、近隣ではかなり有名な資産家であった。遺体発見現場となった自宅さえ1500平米もある邸宅であり、その周辺には7500平米もの広大な土地を所有していたという。

 そのため、同夫妻は毎晩のように池袋の繁華街を飲み歩き、その際に飲食店の関係者らに対して、真偽のほどはともかく「自分の土地だけを歩いて池袋に行くことができる」と豪語していたほどであるという。

 そうした背景から、この事件は発生当初から大資産家であるAさんの富裕な資産を目当てにした強盗事件であるという見方が強かった。しかし、その見方に誤りがあったのか、事件が解決を迎えることなく、現在までいたずらに時が流れていることについては前述の通りであるが、筆者はこの事件について、以前から気がかりな点がある。それはそもそもこの事件が「強盗殺人ではない可能性」についてだ。

 事件発生後の捜査で、殺害されたAさん宅には、2000万円以上もの現金が手付かずの状態で残されていたのだという。たしかに、犯人の目線で、それよりもさらに価値の高いものが目当てとなっていたのであれば、ある意味、「重くてかさばるだけの札束」などには目もくれず、本来の目的となっていたものだけを持ち去る可能性もゼロではないだろう。

 しかしそうは言ってもそこは人間。大金が「あとは持ち去るだけ」という無造作な状態で存在しているのを目にしても、何ら気にせずにスルーすることができるだろうか。筆者はまずこの点について疑問に感じてしまうのだ。

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画像は「警視庁」より

 また、このように多額の現金を自宅に保管していた関係もあるのか、Aさん宅はかなり強固なセキュリティが施されており、また、飲み歩くとき以外は、基本的に夫妻揃って自宅にいたという。つまり、多くの犯罪者にとって、Aさん宅にある多額の現金は、空き巣などで「こっそりと盗む」ことが極めて難しく、そもそも「奪う」しかないような代物であったといえる。

 それゆえ当局も「強盗殺人」として捜査を開始したのだと推測できるのだが、逆に言えばそれだけ侵入難度の高い場所へと押し入ったのに、なぜ犯人は、多額の現金を放置したままで立ち去ったのだろうか。

 しかも、Aさんは自分の寝床にある布団の下に、1000万単位の現金を敷き詰めているという話を、飲み歩きながらしばしばしていたとされ、「Aさん宅に多額の現金がある」というのは近隣でも有名な話であったという。

 そうなれば「現金の存在に気づいていなかっただけ」という推測にも無理がある。つまり、本来であれば事件の目的になりそうな、この「残された多額の現金」という存在が、逆にこの事件を「強盗殺人」とする上で、不自然さを与えるという、“奇妙なねじれ”が生じているのである。

 こうした観点から、筆者はこの事件を、Aさん夫妻に対する怨恨が原因のものではないかと推測しているのだが、実はそうした推測に基づいて改めて事件を見直してみると、前述の“奇妙なねじれ”は途端に解消されることに気付かされる。というのも、犯人が「多額の現金」に目もくれず、「Aさん夫妻の命」を奪うことを主眼としたならば、その実現は意外にも容易であることがわかるからだ。

 前述の通り、同夫妻は頻繁に夜の池袋で豪遊していた。しかもシラフならばかなり強い警戒心を持った人物であるというAさんが、自分の資産状況などについて上機嫌に語っているという証言に鑑みると、頻繁に「ほぼノーガード」とも言える状態になるまで、出先で飲んでいたことが窺える。

Lukas PrudilによるPixabayからの画像

 もし犯人の目的がAさん夫妻の資産ではなく、殺害であったのならば、そこまで深酒している高齢夫妻の命を奪うことは、雑作もないことだろう。実際、夫妻の遺体には、ほとんど防御瘡らしきものが確認できなかったという。これを当局は「知人の犯行ゆえに抵抗できなかった」と見立てたのかもしれないが、筆者は「泥酔ゆえ」と考えている。

 しかも、仮に泥酔状態の同夫妻を殺害するとするならば、別に強固なセキュリティがあるとわかっている自宅を犯行の舞台にせずとも、毎晩のように訪れていた飲食店で実行する方が、犯人にとっては好都合であるだろう。なにせ馴染みの店で気を許し、泥酔している高齢夫妻である。まさか自分がそこで命を落とすなどとは夢想だにせずに高鼾で眠ってしまっていたかもしれない。その状態を確認した上で犯人は、日頃の恨みを込めて鈍器で何度も殴打した……このような光景がうっすらと見えてくるのは、筆者の妄想が過ぎるというものだろうか。

 なお、こうした犯行の経緯を推定した上で、犯人は自分に繋がる線を隠す目的で、殺害後にわざわざAさん宅に遺体を運び入れ、放火したのではないかと筆者は推測している。もしかすると、その際に、強盗殺人に見せかけるつもりで、少しの現金や貴金属類なども多少は持ち去っているかもしれない。

 しかし正確な自宅資産を把握しきれていない犯人にとっては「かなり盗った」と思えるレベルであったとしても、実際にはAさん宅に保管されていた金品のごく一部にすぎず、捜査員も見落とす程度であったのかもしれない。それゆえ、はからずも犯人の「強盗殺人に見せかけたい」という思惑は完全には機能しきれず、前述のような「ねじれ」を生むことになってしまったのではないだろうか。

 いずれにしかり、この事件を巡っては、「解釈」の仕方次第でまったく異なるストーリーが見えてくるように思われてならない。今回の記事を契機に、今後より一層様々な角度からの検証がなされ、事件が解決される日が訪れることをただただ願うばかりである。

※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。

文=野島居慎太郎

日本の凶悪事件に詳しいライター

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