なぜ地図は“北が上”になったのか? 地図の歴史にみる恐ろしい固定観念とバイアスとは!?
“北”の方角をイメージする時、たいていの場合は自分の位置から上方向を想定するのではないだろうか。それは現代の我々が基本的に目にする地図が、いずれも北を上にして描かれていることからくる固定観念が、強く影響しているのだろう。ではなぜ、地図は北を上にして描くことが標準化してしまったのだろうか。
■中世以前の地図は方角は自由だった
地球は平面体であるというトンデモ(!?)な主張をしている地球平面協会だが、彼らの世界認識から唯一学べるとすれば、地球平面協会が採用している世界地図は北極を中心に据えた平面図であるという点かもしれない。
そもそも真ん丸い球体の地球を2次元の地図で正確に表現すること自体、無理があることを彼らは改めて気づかせてくれるのである。ましてや、北を上にした2次元の世界地図で世界をイメージすることに慣らされてしまうことで、我々の世界認識には自分で気づかないバイアスや盲点が実はいくつもありそうだ。
では、どうして世界地図をはじめとする地図が北を上にして描かれるようになったのか?
素朴な(素朴過ぎる!?)説明としては、中世後期に多くの世界地図を製作したヨーロッパ人が、自分たちの住む北半球を“上”にしたかったのだという言い分もあるようだ。
そこで1979年に、オーストラリア在住の当時12歳の少年だったスチュアート・マッカーサー氏は南半球を上にした「マッカーサーの世界地図(McArthur’s Universal Corrective Map of the World)」を製作して発表。世の既成概念を覆すいかにもチャレンジングな試みではあったのだが、その地図のまたの名は「上下逆さまの地図」と呼ばれ、世の固定観念がいかに強いのかを逆に確認する契機にもなってしまった。
しかしながら中世以前、ヨーロッパが地図製作の“メジャー”になる前には、世界各地でさまざまな方角を上に据えた地図が描かれていたようだ。
実際に古代エジプト文明初期の地図は南を上にして描かれていた。これはナイル川が重力に従い“下”に向かって流れているとすれば南が上になるからである。
またヨーロッパでも中世の大部分の広域地図は東を上にして描かれていたという。一方で同時期、アラブの地図製作者は自分たちの信仰の対象や国そのものを見やすく配置するために、しばしば南を上に向けて地図を描いていたということだ。このように世界各地では方角にとらわれることなく自由に地図が描かれていたのである。
■地図にコンパスが描かれるようになる
地図で“北”が意識されるようになったのは、船乗りたちの航海で正確な地図が求められるようになったことに関係してくるという。
まずは14世紀から15世紀の地中海航路の探索においてコンパス(方位磁石)が重用されるようになったことが大きく影響しているという。
1300年代にイタリア、スペイン、ポルトガルで製作され始めた、港や海岸線を写実的に描いた航海用の地図である羅針儀海図(らしんぎかいず、portolan chart)を編纂する上で、集められた船乗りたちの観測データの方位がそれまで以上に重要になったのだ。そしてこの当時、航海で使われ始めたコンパスが、いわば航海の必須アイテムになったのである。
それまでは船乗りたちにとって航海の指針はもっぱら北極星の位置であったのだが、コンパスの普及によって雲が厚い夜でも北の方角を容易に判別できるようになった。古い船乗りたちにとってコンパスは北極星の代替物であり、コンパスの針が北極星に引っ張られていると信じている者も多かったということだ。
こうしてコンパスが航海に欠かせないアイテムになったことで、ある意味でごく自然にこの時期に作られる地図にはコンパスのマークが記されるようになったのだ。
コンパスが指し示す北を上にして地図を描くという決まりはなかったのだが、イタリアの地図製作学校などで、地図に記すコンパスの北の方向を山高帽や矢印で表すことが流行ったり、スペイン・マヨルカ島の地図製作者がコンパスを北極星に見立てて描いたりしたことで、次第に地図上の北が意識されるようになったと考えられる。もちろん複数の地図を同時に広げて北の方角を合わせて眺める機会も徐々に増えてきたのだろう。
この時期からすぐに“北が上”という地図が標準化したわけではないものの、こうした経緯によって“北が上”のフォーマットは徐々に形成されていき、16世紀には主流になったことをオルタナティブメディア「Sott.net」の記事で丁寧にその背景まで記している。
今日のいわゆる“世界地図”に我々の世界観は多大な影響を受けていると思うのだが、地球平面協会までとは言わずとも、思考を柔軟に保つためにも地球はさまざまなアングルから眺めることができるのだということを時折思い返してみてもよいのだろう。
参考:「Sott.net」ほか
※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。
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