異星人へ届け…!宇宙を旅する「ボイジャーのゴールデンレコード」地球からのタイムカプセルとは

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画像は「Wikipedia」より

 太陽系の遥か彼方、冷たい宇宙空間を一枚の金属製の円盤が静かに漂っている。1970年代に打ち上げられた探査機ボイジャーに取り付けられた、通称「ボイジャーのゴールデンレコード」。この円盤は、信号を発するでもなく、誰かに呼びかけるでもなく、ただひたすらに宇宙の深淵へと進み続けている。しかし、そこには私たち地球からのメッセージが込められているのだ。もし、いつか他の知的生命体がこれを発見したなら、彼らが手にするのは、約50年前に一握りの科学者たちが下した決断の結晶なのである。

ミッションの片隅で生まれた壮大なメッセージ

 ボイジャー探査機は、もともと太陽系の外惑星を探査し、その後は地球に戻ることなく宇宙空間を旅し続ける運命にあった。そんなミッションの最中、1976年、著名な天文学者カール・セーガンが、探査機に「地球からのメッセージ」を搭載することを提案した。NASAはこのロマンあふれるアイデアを承認し、セーガン氏にその制作チームのリーダーを任せた。

 与えられた時間はわずか6ヶ月弱。セーガン氏は、フランク・ドレイク氏や、後に妻となるアン・ドルーヤン氏ら少数の精鋭を集め、地球の音、音楽、画像、そして様々な言語での挨拶を詰め込んだ「視聴覚記録」の制作に乗り出した。こうして誕生したのが、銅製で金メッキが施されたレコード盤だ。レコードはアルミニウム製のカバーで保護され、探査機の外側に取り付けられた。カバーには、中性水素の特定の波長や、14個のパルサー(周期的に電磁波を出す天体)の位置といった、宇宙共通の物理法則や数学的知識があれば解読できるような形で再生方法が記されている。これは、万が一にもレコードが発見された際に、どんな知的生命体にも理解してもらえるようにという願いが込められていた。

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画像は「Wikipedia」より

ゴールデンレコードに込められた地球の息吹

 では、このゴールデンレコードには具体的に何が収められているのだろうか。まず音声は、約90分間にわたる世界各国の音楽だ。バッハやベートーヴェンといったクラシックの名曲から、ペルーやアゼルバイジャンの民族音楽、日本の尺八の音色、さらにはチャック・ベリーのロックンロールまで、まさに多種多様。そして、古代メソポタミアで使われたアッカド語から現代中国の呉語まで、55の言語による「こんにちは」という短い挨拶も収録されている。

 画像はアナログ形式で116枚。DNAの二重らせん構造や人体の解剖図といった科学的なものから、人々が食事をする様子、働く姿、そして新しい命が誕生する瞬間まで、地球上の生命の営みが切り取られている。建築物や農耕の風景、道具の写真、さらには数式や化学構造式といった人類の知の断片も含まれる。弦楽四重奏団が演奏している一枚もあるというから、選考チームのセンスと苦労が偲ばれる。

 さらに、「地球の音」として、波の音、風の音、雷鳴、鳥のさえずり、人々の足音、心臓の鼓動、笑い声、そして愛を伝えるキス音までが、連続した音の風景として収められている。当時のアメリカ大統領ジミー・カーター氏からのメッセージも印象的だ。「これは、小さな、遠い世界からの贈り物であり、私たちの音、科学、イメージ、音楽、思想、そして感情の証です。私たちは、あなた方の時代まで生きられるように、私たちの時代を生き残ろうと努めています」。当時の国連事務総長クルト・ヴァルトハイム氏からの挨拶も添えられている。

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舐める、食べる、飲む仕草を写し、人間の食事の方法を表したもの 画像は「Wikipedia」より
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アイザック・ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』第三巻 画像は「Wikipedia」より

意図的に省かれたもの、そして託された願い

 興味深いのは、このレコードに何を含め「なかった」かという点だ。制作チームは、限られた時間と当時の技術的制約の中で、戦争や兵器、特定の宗教儀式や政治的思想といった、対立や論争を生む可能性のある要素を意図的に排除した。代わりに、科学の成果、自然界の美しさ、そして文化の多様性に光を当てた。

 これは地球文明の完全な歴史書を目指したものではなく、あくまで1970年代というある一時期の、平和的で協力的な人類の姿を切り取ったスナップショットなのだ。もちろん、人類が決して平和なだけの種族ではないことは承知の上で、それでも未来への希望を託したのだろう。

 レコードには、14個のパルサーを基準点として太陽系の位置を示す「宇宙の地図」も刻まれている。地球そのものの名前は記されていないが、高度な文明を持つ存在ならば、この情報から私たちの太陽系の場所を特定できるかもしれない。このように、言語ではなく、宇宙共通の言語である「物理法則」を介してコミュニケーションを図ろうとした点も、このプロジェクトの独創性を示している。

届く保証のない、悠久の旅路へ

 ボイジャー1号と2号は、特定の星を目指しているわけではない。惑星探査の過程で、木星などの巨大な重力を利用して加速する「スイングバイ」という方法で軌道が決定され、現在はそれぞれ異なる方向へと、ただひたすらに太陽系を離れ続けている。ボイジャー1号が、比較的近くにあるとされる恒星「グリーゼ445」の近傍を通過するまでには、実に4万年以上もの歳月が必要だという。

 その頃にも、ボイジャーに取り付けられたゴールデンレコードは、星間空間の極低温と真空状態のおかげで、ほとんど劣化することなく存在し続けていると予想されている。金メッキされた銅製のレコードは、10億年以上もその情報を保ち続けられるように設計されているのだ。

 しかし、このレコードには自ら信号を発信する機能はない。発見されるかどうかは、ひとえに、遠い未来、どこかの宇宙で高度な文明を持つ何者かが、偶然この小さな探査機を見つけ出し、その表面に刻まれたメッセージに気づき、そして解読してくれるかどうかにかかっている。

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 このゴールデンレコードは、1970年代という、ある特定の時代の地球の姿を映し出している。デジタルデータが主流となる以前のアナログ記録であり、インターネットもAIも、気候変動問題もまだ一般的ではなかった時代の、科学と未来への楽観に満ちた眼差しがそこにはある。

 チームメンバーの一人であるアン・ドルーヤン氏の脳波を1時間記録し、音声データとして変換したものまで収録されているというから驚きだ。彼女はその際、地球生命の歴史や人間関係、そしてカール・セーガンへの想いを頭に巡らせていたという。

 もし今日、同様のプロジェクトを立ち上げるとしたら、そのプロセスも内容も大きく異なるだろう。より多くの専門家が関わり、世界中から意見を募り、デジタル技術を駆使した膨大な情報が盛り込まれるかもしれない。しかし、このボイジャーのゴールデンレコードは、限られた時間と資源の中で、少数の人間が「地球を代表する」と信じたものを、真摯に、そして未来への希望を込めて選び抜いた、かけがえのない「タイムカプセル」なのである。

 現在、ボイジャー1号は地球から240億キロメートル以上も離れた宇宙空間を飛行中だ。一部の観測機器は機能停止しているものの、地球からのコマンドにはまだ応答しているという。ボイジャー2号も、少し遅れて別の軌道を辿っている。二つの探査機は、それぞれ同じ内容のゴールデンレコードを積んで、静かに未知の空間へと進み続けている。このメッセージがいつか誰かに届くのか、それは誰にも分からない。しかし、私たちのささやかな、そして壮大な願いを乗せた金の円盤は、今日も宇宙を旅しているのだ。

参考:Curiosmos、ほか

TOCANA編集部

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