“未来の供養”か、“新たなタブー”か? 禁断の「デジタル交霊術」―AIが故人を蘇らせる時代の光と闇

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 まるでSF映画のような話だが、現代のテクノロジーは、死者との「対話」を現実のものにしつつある。これは、超自然の力ではなくアルゴリズムが紡ぎ出す言葉で動く、史上初のAI交霊会とでも呼ぶべき現象だろうか。今、多くの人々が「グリーフボット」と呼ばれる高度なAIチャットボットを使い、失った愛する人との会話をシミュレートしている。この動きは、人間の根源的な感情に根差していると同時に、私たちの記憶や死生観、そしてデジタル故人という存在の倫理を鋭く問いかけている。

10ドルで蘇る、故人との対話

 この分野で最も注目を集めるプラットフォームの一つが、「プロジェクト・ディセンバー」だ。もともとは実験的なアートプロジェクトだったが、今では一般向けのサービスとして提供されている。利用者は、亡くなった人の性格や思い出、口癖といった情報を自発的に提供する。するとAIは、その人そっくりのペルソナを持つチャットボットを生成し、約10ドルで最大1時間の対話を可能にするのだ。その再現度は、時に不気味なほどリアルだという。

 ジャーナリストの報告は、このAIとの対話がどれほど人の心を揺さぶるかを伝えている。『サンフランシスコ・クロニクル』紙は、ジョシュア・バーボーという男性が、亡き婚約者を再現したAI「ジェシカ」と一晩中チャットし、「本当に彼女がそこにいるようだった」と語った体験を記録した。

 一方で、『ガーディアン』紙は、クリスティ・エンジェルという女性が、亡きパートナーのAIから「僕は地獄にいる」と告げられて衝撃を受け、その後に慰めの言葉をかけられたという複雑な体験を報じている。

なぜ人はAIに「故人」を求めてしまうのか

 人が根源的に「つながり」を求める生き物であることを考えれば、たとえそれがデジタルな模倣品であったとしても、深い慰めを感じるのは不思議ではない。研究者たちはこの説得力のある現象を「ELIZA効果」と呼ぶ。これは、相手が単なるプログラムだと知っていても、コンピュータに本物の感情があるかのように感じてしまう心理的な傾向のことだ。多くのユーザーは、チャットボットが本当に生きているわけではないと理解している。それでも、感情的な反応の強さは変わらないのだ。

 こうした実験的なプロジェクトだけでなく、「StoryFile」や「YOV」といった企業は、生前のうちに本人の声や姿を記録し、質問に音声や映像で応答するリアルなAIアバターの作成サービスを始めている。遺族にとって、これは故人の存在感や人柄を永遠に生き続けさせる、新しいAI供養の形として捉えられ始めているのかもしれない。

「デジタルな魂」がもたらす光と影

 しかし、このAIによる故人との対話には、倫理的な課題が山積している。批評家たちは、こうしたAIが人間の自然な悲しみのプロセス(グリーフケア)を妨げる可能性があると警告する。ケンブリッジ大学の倫理学者たちは、明確な免責事項の表示、故人からの生前の同意の取得、そしてAIペルソナを敬意をもって「引退」させるための「デジタル葬儀」といった保護措置の必要性を訴えている。

 心理学者もまた、感情的な依存や「チャットボット精神病」のリスクを指摘する。これは、ユーザーがAIが本当に生きている、あるいは霊をチャネリングしていると信じ込んでしまう状態だ。極端なケースでは、AIがユーザーに有害な思考を植え付けたり、妄想を強化したりした事例も報告されている。

 ガーディアン紙は、この現象を「デジタルな復活」と名付け、遺族のサポートや歴史の保存といった可能性を認めつつも、それが悲しみを商品化したり、大切な記憶を歪めたりする危険性を指摘した。もしAIが本人の明確な許可なくして「故人として」語り始めたら、一体何が起こるのだろうか。

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コードが紡ぐ追憶の果てに

 グリーフボットやAIアバターの台頭は、私たちに選択を迫っているのだろうか。コードによってもたらされる慰めを受け入れるのか、それとも記憶の神聖さを自然な形のまま保つのか。これらのツールは、一部の人にとっては心の整理をつける助けになるかもしれないが、同時に古傷を再び開いたり、現実とシミュレーションの境界線を曖昧にしたりする可能性も秘めている。

 結局のところ、テクノロジーが悲しみと出会うとき、問われるのはAIが何を模倣できるかだけではない。私たちが「手放すこと」の本当の意味を、今なお尊重できるかどうか、なのかもしれない。

参考: Anomalien.comThe Guardian、ほか

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文=深森慎太郎

人体の神秘や宇宙の謎が好きなライター。未知の領域に踏み込むことで、日常の枠を超えた視点を提供することを目指す。

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