UFO騒動の“原点”か? 19世紀末、アメリカ全土を震撼させた「幻の飛行船」の謎

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 ライト兄弟が人類初の有人動力飛行に成功する、まだ7年も前のこと。19世紀末のアメリカの空に、前代未聞の謎が浮かび上がりました。強力なサーチライトを放ち、プロペラを回転させながら夜空を駆ける、巨大な葉巻型の飛行物体――。

 それは「幻の飛行船(ミステリー・エアシップ)」と呼ばれ、カリフォルニアからニューヨークまで、全米で数えきれないほどの人々によって目撃されました。これは、後に世界を席巻するUFO騒動の、いわば壮大な序章だったのかもしれません。一体、当時の人々は何を見ていたのでしょうか。

全米を震撼させた、謎の飛行船団

 すべては1896年11月17日の夜、カリフォルニア州サクラメントから始まりました。数百人もの市民が、雲の切れ間を移動するまばゆい光を目撃。州務長官の助手は、その正体を確かめようと州議会議事堂のドームに駆け上がったといいます。

 目撃者たちは口々に、暗く巨大な船体、複数の光、そして回転するプロペラについて語り、上空から叫び声が聞こえたと証言する者まで現れました。

 この最初の目撃を皮切りに、謎の飛行船はカリフォルニア全土に出現。サンフランシスコでは、そのサーチライトの光にパニックを起こしたアシカの群れが、一斉に海へ逃げ込む騒ぎとなりました。

 そして翌1897年の春、騒動はついに全米規模へと拡大します。ネブラスカ州を皮切りに、カンザス、テキサス、イリノイと、目撃報告は東へ東へと伝播。最終的に1000件以上もの目撃談が国中の新聞紙上を賑わせることになったのです。

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1896年11月22日のサンフランシスコ・コール紙に掲載された謎の飛行船 Image from San Francisco Call (Nov 22, 1896), Public Domain. Source
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1896年11月29日のサンフランシスコ・コール紙に掲載された、カリフォルニア州議事堂のドームから観察された謎の飛行船 By Unknown author – San Francisco Call, Public Domain, Link

乗組員は人間? 火星人? 奇妙でユーモラスな遭遇譚

 この事件が他のUFO騒動と一線を画すのは、その乗組員との奇妙で、どこか人間味あふれる「遭遇譚」が数多く報告されている点です。現代のUFOといえば「グレイ型エイリアン」を想像しがちですが、当時報告された乗組員の多くは、まぎれもない「人間」でした。

 アーカンソー州では、保安官が「飛行船で国中を旅している」と語る髭の男性に遭遇。男性の仲間たちは、せっせと水袋に水を汲んでいたといいます。ミシガン州では、飛行船の乗組員が農家を訪れ、「コーヒーと卵サンドイッチをくれないか」と頼み込み、カナダの硬貨で代金を支払ったという、何とも微笑ましい話まで残っています。

 もちろん、中には不可解な話もあります。ストックトンで報告された事例では、H.G.ショーという名の退役軍人が、着陸した飛行船から現れた3人の細身の生物に連れ去られそうになったと証言。「彼らは火星人だった」と主張しました。

 また、カンザス州の牧場主アレクサンダー・ハミルトンは、「飛行船がうちの牛をロープで吊り上げて連れ去った」という衝撃的な話をしましたが、これは後に地元のほら話大会で優勝するために彼が創作した物語であったことが判明しています。

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1897年4月13日のセントポール・グローブ紙に掲載された謎の飛行船のイラスト By Unknown author – The Saint Paul Globe (Minn), Public Domain, Link

秘密の発明家か、新聞社のデマか。謎をめぐる大論争

 当時の人々は、この謎をどう解釈したのでしょうか。最も有力だったのは、どこかの天才発明家が、極秘に開発した飛行船の試験飛行を行っている、という説です。あまりに多くの人が噂したため、発明王トーマス・エジソンが「私ではない」と公式に声明を出すほどでした。しかし、もし本当に画期的な発明品だったのなら、なぜパイロットは名乗り出ず、忽然と姿を消してしまったのでしょうか。

 もう一つの有力な説が、デマや集団ヒステリーです。19世紀末は「イエロージャーナリズム」の全盛期。新聞社は読者の気を引くためなら、どんな扇情的な話でも記事にしました。事実、飛行船の目撃報告は、それに関する記事が新聞に掲載された地域で集中して発生する傾向がありました。子供たちがランタンを付けた気球を飛ばすようないたずらも、横行していたようです。

 とはいえ、目撃者の中には裁判官や警察官、聖職者といった信頼性の高い人々も含まれており、彼らの証言は驚くほど詳細で具体的でした。天文現象の誤認だけでは、とても説明のつかない報告が数多く残っているのも事実です。

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歴史の片隅に消えた「純粋な謎」

 1897年の夏になると、あれほど全米を騒がせた飛行船は、まるで蜃気楼のように忽然と姿を消しました。残骸も、設計図も、そして正体も、何一つ見つかることはありませんでした。

 この事件は、ロズウェル事件のように政府の陰謀論に発展することも、エリア51のように神話化することもありませんでした。人々の熱狂が冷めると共に、まるで忘れ去られるように歴史の片隅へと追いやられてしまったのです。

 だからこそ、「謎の飛行船」事件は、現代のUFO神話とは異なる、ある種の「純粋な謎」として私たちの前に横たわっています。それは、技術への憧れと社会の不安、そしてメディアの熱狂が入り混じった、19世紀末という時代そのものが生み出した、壮大な幻だったのかもしれません。あるいは、本当に誰にも知られることのなかった天才が、夜空を舞台に一世一代の飛行を披露していたのでしょうか。その答えは、今もなお歴史の霧の中に閉ざされています。

参考
Mystery airship(Wikipedia)
Anomalien.com
Plane & Pilot Magazine
ほか

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文=ヨミノ・ユナ

神奈川県在住の主婦ライター。得意ジャンルは都市伝説、オカルト、ネット文化、歴史ミステリー。子育ての傍ら、深夜にネットサーフィンをする中で出会った不思議な話を探求するのが趣味。タイムトラベルやパラレルワールド系のSFが大好物。

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