実在しない国「トレンザ」から来た女 ― 空港で消えた“異世界からの訪問者”か？意外な真相とは…

2025.10.21 20:00 編集部

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実在しない国「トレンザ」から来た女 ― 空港で消えた“異世界からの訪問者”か？意外な真相とは…の画像1 — 画像は「YouTube」より

「私のパスポートは、トレンザという国で発行されました」

　ニューヨークのJFK空港に降り立った一人の女性。彼女が提示したパスポートに、入国審査官は言葉を失った。そこに記されていた国名は、地球上のどこにも存在しない、未知の国「トレンザ」だったのだ。このあまりに奇妙なニュース映像風の動画が、今、SNSで爆発的に拡散し、「異次元からの訪問者ではないか」と世界中を騒然とさせている。しかし、この物語には、巧妙に仕組まれた“嘘”と、その元になった有名な都市伝説が存在した。

「ならば、ここは私の世界ではない」―完璧すぎたフェイク動画

　拡散された動画は、まるで本物のニュース番組の一場面のようだ。ナレーターは、冷静な口調で、この驚くべき出来事を伝える。

「女性は東京からの便でニューヨークに到着。しかし、彼女のパスポートは、存在しない国“トレンザ”で発行されたものでした。驚くべきことに、その完璧な書類には、同じく存在しない国々の入国スタンプが、何十も押されていたのです」

　さらに、物語は衝撃的な展開を迎える。審査官から「トレンザという国は存在しない」と告げられた女性は、静かにこう言い放ったという。「ならば、ここは私の世界ではありません」。そして、警備員に連行された彼女は、尋問を待つ間に、忽然と姿を消してしまった――。

　このミステリアスで、どこかロマンチックな物語に、世界中の人々が熱狂した。多くのメディアが、彼女がタイムトラベラーか、あるいはパラレルワールドからの訪問者である可能性を、大真面目に報じたのだ。

元ネタは日本の空港に現れた「タウレッドから来た男」

　しかし、都市伝説に詳しい者なら、この物語に強い既視感を覚えるはずだ。そう、この「トレンザから来た女」の物語は、数十年前から語り継がれてきた、ある有名な都市伝説と、その構成が瓜二つなのだ。

　その都市伝説とは、「タウレッドから来た男」。1954年、日本の羽田空港に、ヨーロッパ風の白人男性が現れた。彼が提示したパスポートは、誰も聞いたことのない「タウレッド」という国で発行されたものだった。地図を広げさせると、彼はフランスとスペインの間にあるアンドラ公国を指さし、「ここがタウレッドだ。1000年以上も前から存在する国だ」と主張。不審に思った当局が、彼をホテルの一室に軟禁したところ、翌朝、鍵のかかった部屋から、彼は跡形もなく消え去っていた――。

　この「タウレッドの男」の物語もまた、長年にわたり、タイムトラベラーや異次元人の証拠として語り継がれてきた。しかし、後の研究で、その正体は、ジョン・アレン・K・ジーグラスという国際的な詐欺師が起こした事件が歪曲されて伝わったものであることが、ほぼ確実となっている。

実在しない国「トレンザ」から来た女 ― 空港で消えた“異世界からの訪問者”か？意外な真相とは…の画像2 — イメージ画像　Created with AI image generation

AIが生んだ“新世代の都市伝説”

　では、「トレンザの女」の正体は何だったのか。ネット上の“探偵”たちの調査により、その真相はすぐに明らかになった。動画で使われていた映像は、数年前に放送された、全く無関係なテレビ番組の一部を切り抜いたものだったのだ。そして、そこにAIを使って、もっともらしいナレーションを後付けし、一本のフェイク動画が完成した、というわけだ。

　しかし、一度火がついた物語は簡単には消えない。フェイクであることが暴かれた後も、この動画は世界中に拡散し続けている。真実を知らない多くの人々は、今も「トレンザから来た女」の不思議な物語を信じ、語り継いでいるだろう。

　AIが生み出した巧妙な嘘は、こうして、新世代の「タウレッド男」として、新たな都市伝説の1ページに刻まれようとしている。我々は、もはや何が真実で、何がAIの作った嘘なのかを見分けることができない時代に生きているのかもしれない。

参考：Coast to Coast AM、ほか