2015年(平成27年)のユネスコの世界文化遺産登録に向けて航海を続けている軍艦島。昨年9月、政府が、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」を同機関に推薦することを決めると、それが追い風となり、軍艦島を訪れる観光客は、右肩上がりに増えた。 (軍艦島は、「明治日本の産業革命遺産〜」の構成資産の中に含まれている)
軍艦島(長崎県長崎市端島)で操業を続けていた「端島炭鉱」が閉山したのは、今から40年前の昭和49年(1974年)1月15日のことになる。そして、同年4月20日には、全島民が離島した。これ以降、軍艦島は、無人の島となった。
その後、時代は変わり、軍艦島が「廃墟の島」として知られるようになると、様々な人たちが入り込むようになり、廃墟マニアの『聖地』にもなった。
「明治日本の産業革命遺産~」の構成資産の一部として、軍艦島が世界遺産に登録されるか否かが決定されるまで、余すところ1年ちょっと。この夏には、ICOMOS(国際記念物遺跡会議)による現地調査も行われる。今後、軍艦島がどのような道のりをたどるのかは、とても気になるところだ。
現在、軍艦島の西部地域には、20棟以上の建築物が残されている。これらの建築物は、40年もの長きにわたって放置されているために荒廃が進んでいるが、それでも何とか現状を保っている。また、島の東部地域には、海底奥深くから石炭を掘り出すために使われていた鉱業所の施設などがある。
世界遺産に登録されるためには、これらの建築物や遺構の保全が求められるが、すべてを整備して保存してゆくことは困難であると考えられている。こうした中、長崎市は、3月5日に行われた市議会総務委員会で、居住施設(建築物)についての新たな保存計画案を説明した。これを要約すると、以下のようになる。
〈1〉延命可能な全施設の外観維持と倒壊部分の復元(158億円)
〈2〉延命可能な全施設の外観維持(151億1,000万円)
〈3〉残存状態が良好なアパート2棟の保存(25億7,000万円)
〈4〉全施設の自然劣化を許容
〈5〉残存状態が良好なアパート2棟に旧端島小中学校校舎などを合わせた計5棟を保存(50億2000万円) ※新計画案/カッコ内は、保存整備費用
〈4〉を除いて、必要となる費用はどれも膨大なものとなっている。長崎市企画財政部世界遺産推進室によると、〈5〉の中に含まれているのは、3(教員住宅)、16、17、65、70(小中学校)号棟となっているという。
16、17号棟については、〈3〉の中にも含まれているので、このことからも、日給住宅の重要性がうかがい知ることができる。具体的な保存対象や手法などについては、3月中に市が設置を予定している「高島炭鉱整備活用委員会」で検討されることになっている。
『軍艦島大特集』では、島の東部地域にある鉱業所施設の紹介に始まり、30号棟や日給住宅(16~20号棟)、65号棟を紹介してきた。このうち、日給住宅16、17号棟と65号棟は、〈5〉の案に含まれている。しかし、残念なことに、30号棟は、この案に含まれることはなかった。建物の現況を考えると仕方ないことかもしれない。
軍艦島には、これらの他にも貴重な建築物や遺構が残されている。今後、国や長崎市によって、多岐にわたる保全対策が進むことを願って、この連載を終わりたい。
※長崎市の特別な許可を得て取材・撮影をしています
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