無邪気さの中に潜む狂気 ― マリエル・クレイトンの“邪悪なバービーワールド”
■ 実は、“クレイジージャパン” だったクレイトン作品
マリエル・クレイトンは写真家だ。しかし、写真の専門教育は受けておらず写真家を志したこともない。最初にカメラを手にした動機は旅先の風景を撮るためだった。
ところが、東京での滞在が彼女の人生を変えることになる。偶然足を踏み入れた玩具店で見つけた日本製ミニチュアのシュールな世界に出会ったことで、バービー人形とミニチュアを組み合わせた写真作品作りを思い立ったのだ。そして、撮影を重ねて行くうちにバービー人形を抜群にオモシロい “メディア” だと考えるようになったのだという。
バービーはアメリカ発で世界を席巻した人形だ。しかし、実は日本と極めて縁が深い。
バービー人形はもともと、米マテル社の創業者の1人、ハンドラー氏日本の玩具問屋である国際貿易に開発と生産を依頼するかたちで作られた。衣装担当デザイナーのシャーロット・ジョンソンは日本に派遣され、帝国ホテルの客室にミシンを持ち込み、試作に1年以上を費やしたという逸話も残っている。日本国内で生産されていたのは1970年代初めまでだが、この時期のバービー人形はその作りの良さから、ビンテージアイテムとしてコレクターの間で高額で売り買いされている。
そんな日本で作られたバービー人形が、マリエル・クレイトンの手に掛かり、日本製のミニチュアと組み合わされ、過剰かつ過激にドロドロとした女の子の心の内を暴露するメディアとなる。「女性たるものこうあるべし」という社会的圧力からくる生きづらさは、中身は違えど、日本においても相当の強度を持ち存在している。そういった意味でも、マリエル・クライトン作品はクールジャパン、否、クレイジージャパンとでも言っていいのかもしれない。
(文=渡邊浩行)
■Web Site
http://www.thephotographymarielclayton.com/
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