どんよりとした雲が空一面に広がり、「X階段」が雨に濡れている
――“重み”を感じる写真が多いですが。
酒井 『黒』という色を大事にしているからでしょう。雨が降っている日、建築物のコンクリートは“黒光り”します。このようなトーンは、今まで見たことがありませんでしたね。建築物の劣化が進んでいることもあり、何とも言えない趣があって、本当に美しかったです。魅了されましたねー。
かつて軍艦島は、海底炭鉱の島だったのですが、島の東部にあった鉱業所には、海底から掘り出された石炭が山積みとなっていました。鉱業所の建物の中には、石炭ストーブが何台も置かれていたと思うんですけど、そこで石炭を燃やしていたときの臭いが住宅棟の方にも漂ってきていたと思うんですよね。このようなニュアンスをも取り入れるようにして『黒』という色で表現してみました。
自分のキャリアの中には、国鉄時代の「蒸気機関車」を撮っていたことや「アフリカ音楽」などがあります。「蒸気機関車」については、中学生の頃の話ですけど(笑)。このようなことも大きな影響をもたらしていると思います。「蒸気機関車」の場合は、ススだらけになった機関車の美しさに魅せられました。「アフリカ音楽」では、それを実際に聴くためにアフリカに行きました。そこでは、アフロビートの創始者であるフェラ・クティを始めとするミュージシャンに会って、黒人のカッコ良さや美しさに魅了されましたね。軍艦島に潜んでいる『黒』の美しさに気づくことができたのも、このような経験によるものが影響していると思います。