「台北 國立故宮博物院」展の謎 ― なぜ、中国の“とびきり”の秘宝が台湾にあるのか?
■中国4000年の歴史はウソ?
俗に中国4000年の歴史…というが、あれは糸井重里氏がインスタントラーメンの広告のために作ったコピーライトにすぎない。中華人民共和国の歴史はたかだか65年。中華民国を入れたとしても100年ちょっとで、アメリカ合衆国よりはるかに歴史が浅い。もちろん、中国大陸の歴史は3000年を超えてはいるものの、4000年はサバを読み過ぎた数字だろうと言われている。
また、中華民族は王朝が倒れる時に、その前の王朝を徹底的に破壊する悪癖がある。したがって王朝と王朝の間のつながりはきわめて薄く、文化的な継承がなされにくかった。しかし、前の王朝の皇帝の持ち物だけは、所有することによって自らが中国大陸の正統な支配者であることを示す意味があった。
■故宮博物院の始まり
そして「故宮博物院」の歴史は、辛亥革命(1911年)によって清朝が倒されることに始まる。辛亥革命とは、孫文らを中心に2000年続いた中国皇帝の歴史に幕引きがなされ、中華民国が樹立された革命だ。
その時、紫禁城にあったのが膨大な数の歴代皇帝の持ち物だ。皇帝は去ったものの、歴代皇帝たちの持ち物は民衆に自らの正当性をアピールするために有効だった。そこで、中華民国政府は革命記念日に合わせて5万人もの民衆に紫禁城と財宝の数々を一般公開する。それが故宮博物院のはじまりだ。
やがて孫文の後継者・蒋介石が北京に入城し(1928年)、とりあえずは中国再統一という形が取られるが、時代は長続きせず満州事変(1931年)を皮切りに日本軍による中国侵攻がはじまる。戦火は北京にも押し寄せ、紫禁城にあった文物は疎開を余儀なくされる。これが、紫禁城の文物が台北に渡る最初のきっかけとなった。
そして1937年。文物は当時首都だった南京に移されるが、そこにも戦火がやってきて、南京からさらに四川省や桂林方面へ大陸の奥地と分散し保管されていく。
1945年。日本軍が去ったあとも、中国本土では毛沢東の共産党vs蒋介石の国民党による内戦が勃発し、戦火は止むことがなかった。やがて蒋介石は敗北し、大陸から台湾に移り住むことを決意する。
こうして、北京紫禁城にあった無数の文物が台湾に渡ったのである。いったん重慶に集められた文物は、船で基隆(キールン)に3回に分けて運ばれた。
■「台北 國立故宮博物院」オープン
そして1965年。北京の紫禁城にあった歴代中国皇帝の文物は、台北郊外の外雙渓(がいそうけい)に「台北 国立故宮博物院」としてオープンしたのである。
つまり、「台北 國立故宮博物院」は、中国大陸の歴史とは対照的に、まだ開館して50年足らずの新しさということだ。台北と北京の両方に故宮博物院があるのはそういう理由だが、収蔵品の質も量も、台北のそれは北京のそれを遥かに凌駕している。良いものはみんな蒋介石が持って行ってしまったのだ。
余談ながら、台湾人の4分の3は、アミ族やタイヤル族といった原住民と、海を渡ってきた漢民族との混血だ。DNA的にも中国の一部とは言いがたい。
それをあらわした表現に、台湾には「おじいさんはいるが、おばあさんはいない」という言葉がある。これは「漢民族の姓を受け継いだおじいさんはハッキリしてるが、原住民であるおばあさんは出自がはっきりしない」という意味である。
上野や太宰府で見る、中国の文物…。一体どう見えるのか? 今月半ば、また「台北 國立故宮博物院」行く予定があるので、ぜひとも確認してみたい。
■小暮満寿雄(こぐれ・ますお)
1986年多摩美術大学院修了。教員生活を経たのち、1988年よりインド、トルコ、ヨーロッパ方面を周遊。現在は著作や絵画の制作を中心に活動を行い、年に1回ほどのペースで個展を開催している。著書に『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版)、『みなしご王子 インドのアチャールくん』(情報センター出版局)がある。
・HP「小暮満寿雄ArtGallery」
・ブログ
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